『俺は猫である(後編)』
2017-02-22 Wed 18:02

「ああ、諸君。よく来たね」
「博士」
猫は博士を見るなり、鳴き出した。
「ニャー!(博士!)」
博士は、ん?という顔でジュンに抱かれている猫を見下ろした。
「どうしたんだね、この猫は」
「ついて来ちゃったんですよ・・」
困ったように甚平はそう言ったが、降ろされた猫は必死に博士の足元で戯れている。
「ニャー、ニャー」
「博士に随分甘えてるなあ」
博士は改めて4人を見た。
「それより、ジョーはどうした」
「それが・・」
「あいつ、とうとう返事よこさなかったな」
「寝てんのとちゃうか?」
「竜じゃあるまいし」
「ふんっ」
「ニャー、ニャー」
猫は博士の脚を前足で叩く仕草をし続けた。なので、博士は猫を見下ろした。
「ん?なんだね?」
そう言ってじっと博士は猫を見つめた。
「・・・・」
なんだか猫の瞳が何かを訴えているかのようにうるうるして自分を見つめている。
(博士〜・・何とかしてください・・)
博士は考え事をしているようだったが、やがて猫を抱き上げるとこう言った。
「わかった。私がしばらく預かろう」
「え〜、何でえ?」
驚く諸君を代表して甚平が言った。
「腹を空かしているのだろうし、それにー店には置けないだろう?」
「それなら俺が預かります。なあに、猫の1匹や2匹・・」
博士は健に微笑んで答えた。
「いや、健、大丈夫だ」
「第一、兄貴、キャットフード買えんのかい?」
「・・・心外だなあ・・」
「でも博士のところだったら安心だわ。(猫に)いい子にしてるのよ、猫ちゃん」
そう言ってジュンは猫の頭を撫でたが、猫は困った顔をしているようだった。誰も気づかなかったが。


博士からの連絡が済むと忍者隊はそれぞれ帰って行った。そして猫だけ残された。
博士はしばらく窓際で何かを考えていたが、振り向いてソファの上でじっとしている猫に視線を遣った。
「そこが落ち着くのかね?」
猫は博士を見た。
「かつて一緒に暮らしていた子供たちがよく遊んでいた場所だ」
そして彼はじっと自分を見上げている猫にこう言った。
「一緒においで。退屈だろう」
博士は猫を抱くと部屋を出た。
しばらくしてある扉を開け、地下へと続く階段を下り始めた。
「これを見るのは君だけだぞ」
扉を開けると博士は猫を下ろした。そこは大きな部屋、いや体育館か何かの会場のようなスペースで、金属を叩く音や溶接する時の火花のスパーク音があちこちで聞こえる。
「ここはバードミサイルの製造工場だ。こうして使用されるたびに造っている」
猫はじっとその様子を見つめた。しかも興味津々だ。
「これを造るのには様々な工程があり、オートメーション化された部分と人の手で行なわれている。もちろん武器として使われるのは仕方ないことだが、その裏には技術者たちの英知、そして努力がある」
博士は猫に視線を向けた。すると猫はうずくまり、そっと博士の顔を伺うように見上げた。
博士は笑った。
「咎めているのではない。確認したかったのだ」
博士は猫を抱き上げた。
「それじゃ行こう。もどに戻す薬もあるはずだ」
そしてドアを開けて出て行った。


博士は窓から外を眺めていた。そして彼の隣では研究員が立っていた。先ほどまで小さくなっていたのだが、結果オーライとなったのか普通にしていた。
「・・ところで、今度は何の研究をしていたのだね」
「実は・・動物の生態をより深く理解するためにどうしたらいいかと話し合ってた時、その動物の気持ちになってみるといいかもしれないとの意見がありまして・・まあ、冗談だったんですが、いっそ動物に変身してしまったら面白いんじゃないかと・・」
「それは思い通りの動物になれるのかね?」
「そうですね・・・。多分、その人にとって一番身近で大切に思っている生物になる、という感じでしょうかね」
博士は視線を戻した。
「・・・なるほど。わかったよ。それでか」
そして続けた。
「ああ、君。自分のものはちゃんと持って帰ってくれよ。そうでないと、私の部下が何かしでかしてしまうからね」
「はい、すみません」


森の木々の中にそのトレーラーハウスがあった。今日はとてもいい天気だ。ジョーはホースの水を周りの草花たちに撒いていた。
「ニャ〜」
そこへルナがやってきて彼の脚に体をこすりつけ、甘える仕草をした。
「なんだ、ルナ。もう腹減ったのか?」
しかしルナは甘えるばかりでそんなそぶりもない。
「なんだ、違うのか?おい、そうひっ掻くなって。分かったよ」
ジョーはルナを抱き上げた。そして甘える彼女を優しく撫で、ホースを片付けてトレーラーハウスの中へ入っていった。



       ー  終わりにゃ♪ ー


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『俺は猫である(前編)』
2017-02-21 Tue 18:04

甚平は様々な文字が書いてある本の背表紙を眺めていた。
どれも様々な言語で書いてあって、甚平にはさっぱりだった。
先ほどまでは他のメンバーもいたのだが、話が終わるとさっさと引き上げてしまったので、甚平一人研究室に残っていたわけだ。
入ってきた南部博士はそんな甚平を見て話しかけた。
「なんだ甚平、まだ帰ってなかったのか。店は大丈夫なのか」
甚平は振り向くことなく答えた。
「うん、平気だよ、お姉ちゃんきっと兄貴たちと一緒だよ。店は夜開けばいいんだし」
「そうか」
「それにさ、いっつも店の番か買い物ばっかりでさ。疲れちまうよ。たまにはのんびりしなくちゃ」
博士はやれやれという表情をした。
「ねえ、博士。ここすごいですね。本ばっか」
博士は笑った。
「そうだろう。研究に欠かせない書物ばかりだ。どの本も私の知識を広げてくれている」
「オイラなんか見ただけですぐに眠れそうだよ」
「ははは」
そこへドアが開いて研究員が入ってきた。
「博士、例のものを持ってきました」
「ああ・・そうか。で、今度は大丈夫だろうね」
「はあ、たぶん・・」
「たぶん、とはなんだ。」
「幾分まだ実験中なもので・・」」
そこへ他の研究員が通りかかり、開いているドアから顔をのぞかせた。
「おーい、ちょっと手伝ってくれ」
「あ、ああ」
研究員は持ってきたものを棚の空いている場所に置くと会釈をして部屋を出て行った。
「ねえ、博士ー。もうオイラ帰るよ」
「ん?そうか」
そして何かを思いついたように棚へやってきた。
「何かあったな。ジュンに何か持って言ってやりなさい」
そう言って箱らしきものを置いた。
「それなあに?」
「アンダーソン長官から頂いたものだ。コーヒーでね」
「何だ、お菓子じゃないのか」
「はは」
「ねえ、博士。その奥にあるお菓子も欲しいな。お姉ちゃんの機嫌を取るには甘いものじゃなくちゃ」
「甘い物?(手に取る)・・・これは見たことがないな。誰が置いて行ったんだ」
しかし博士はそれをも甚平に渡した。
「まあいい。それでは気をつけて帰るんだよ」
「はーい」
甚平はそれらを抱えてスナックJへ戻った。


スナックJはいつも昼間は閑散として静かだ。
いつもこの時間を利用して忍者隊のメンバーがやってくる。
甚平が皿洗いをしているとジョーが入ってきた。
「何だ、誰もいないのか」
「うん。お姉ちゃんは買い物だって。なーんか欲しいものがあるんだってさ。化粧品か何かじゃない?つけたって代わり映えしないのにさ」
「何言ってんだ。ジュンだって女の子だ、綺麗になりたいんだろ」
すると甚平は皿を置いてカウンターから出てきた。
「いけね、洗濯物取り込まなきゃ。それじゃジョーの兄貴、ここで番しててよ。そこにあるものでも食べてて」
「え?俺、甘い物はあまり得意じゃねえんだがなあ」
しかしもう甚平は二階へ上がってしまったので、ジョーは諦めたようにトレーの中にあるクッキーのようなものに手を伸ばした。
やがて干してあったとみられるタオルやおしぼりなどを両手に抱えて甚平が降りてきた。
「よいしょ・・っと」
そしてそれをカウンター脇に置いた甚平は水を飲んだ。
「やれやれ、これまた畳むのめんどーなんだよなあ。ねえ、ジョー、手伝ってーーーあれ?」
甚平は辺りを見渡した。
「ジョー?ジョー、もう帰ったのかなあ」
「ニャー」
「・・・?」
甚平は先ほどまでジョーが座っていた椅子の下に1匹の猫がこちらを見上げているのを見た。
「あれ?いつ来たの?ダメじゃないか、勝手に入ってきちゃ」
甚平はそう言って猫の首根っこを掴み、顔の高さまで上げた。
「うわー、怖い顔してんなー。ジョーの兄貴そっくり」
「ふにゃーっ!」
猫は怒ったように爪を立てて甚平の顔を掻いた。ので甚平は猫を睨んだ。
「いてえ、何すんだよ、こいつ!」
そこへドアが開いて健と竜が入ってきた。
「おい、甚平。猫なんか連れてきて大丈夫か?ジュンに怒られるぞ」
「だって〜」
「甚平はしょうがないのお」
「違うよ、猫は〜」
そしてジュンが遅れてやってきた。
「ごめん、ごめん、甚平。目移りしちゃって」
「もう、お姉ちゃん、化粧なんかしたって無駄なんだから買うのやめなよ、もったいないよ」
「まっ、何よ無駄って」
「まあまあやめろよ」
そう言って椅子に腰掛けた健だったが、ジュンの鋭い視線が刺さった。
「それだけ?ジョーだったらもっと気の利いた事言うに決まってるわ」
「ニャー」
「あら?」
ジュンは甚平に首を掴まれてぶら下がっている猫を見た。
「ダメよ、甚平。そんな事しちゃ。貸してごらんなさい」
ジュンはそう言って猫を甚平から奪うように取り上げると、自分の胸に抱き寄せた。
「ほうら、こうやって抱けば大人しくなるでしょ?」
ジュンはそう言って微笑んだ。猫は顔を赤らめ慌てて背けたが、甚平と目があって睨んだ。
「それよりさ、ジョーの兄貴見なかった?」
「ジョー?」
「うん、さっきまでいたのに急にいなくなっちゃたんだ」
「そうか。今日はレースが早く終わるって言ってたのにな」
「大方、寝てんのとちゃうか」
「それは竜だろ。違うよ、きっとまたすんごい美女でも見かけて行っちゃたんだよ。何しろ気まぐれだもんな、いい気なもんだ」
「ニャー、ニャー、ニャー!(おい、甚平、後で覚えておけよ!)」
「あらあ、どうしたの?わかった、お腹空いてんでしょ。あとでキャットフード買ってきてあげるから我慢なさいな」
「ニャー、ニャー、ニャー!(ジュン、俺は別に腹減ってねえ!)」
「はいはい、わかったから」
「ニャー・・(わかってねえだろ)」
ピー、ピー。
「はい、こちらG1号」
『忍者隊の諸君、私のところへ集まってくれ』
「わかりました」
「どうしたの?健」
「鉄獣かい?」
「わからん。それじゃ行こう」
「じゃ、あなたは留守番ね」
ジュンが降ろそうとすると、猫は駄々をこねた。しがみついて、まるで連れてってくれという感じだ。
「わかったわよ、博士に怒られたって知らないから」
健はブレスレットのスイッチを押した。
「ジョー、どこだか知らんが、博士からの招集だ。来いよ」
健はジョーから特に返事はなかったのが気にはなったが、そのまま3人(と1匹)を引き連れて三日月基地へと向かった。



(後編へ続く)


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『ミモザ』
2017-02-14 Tue 18:08

朝目覚めたジョージは布団から抜け出してベッドから降りた。
今朝はとてもいい天気で小鳥のさえずる声が聞こえる。
ジョージは服に着替えると階下へ降りた。台所からいい匂いが漂ってくる。カテリーナが食事を作っているのだ。
とはいえ、いつも朝はカプチーノにビスコッティと決まっているのだが、彼女は他に何か作っているらしい。今日のおやつかな、と彼は思った。
カテリーナはこうして家にいる時には得意の料理に時間をかけて2人の食いしん坊達に振る舞うのが何よりの楽しみなのだ。
と、そんなところへジュゼッペがそっと入ってきた。どうしてそんなに静かに入ってくるんだろうとジョージが見ていると、彼は彼女の背後にやってきて、ささやいた。驚いて振り向いたカテリーナは微笑み、キスを交わすと、ジュゼッペの後ろ手に持っていたバラの花束が差し出されるのを見た。
「まあ、素敵!」
カテリーナは彼に抱きつき、花束を受け取って香りを楽しみ、うっとりとした表情をした。
ああ、そうか、今日はヴァレンタインだ。パパってばかなり奮発したな。去年より多いぞ。
赤いバラの花言葉は数によって違う。数が多いほど、その人を深く愛しているという意味になる。ジュゼッペとカテリーナの2人は近所でも有名な”おしどり夫婦”だ。
途端にジョージは浮かない顔になった。みんなで食事をしていても返事が上の空だ。

食事が終わるとソファに腰掛けてぼうっとしているジョージのところへジュゼッペがやってきて隣に座った。
「坊主、どうした?元気ないな。友達と喧嘩でもしたか?」
ジョージは顔を上げて彼を見た。
「パパ・・僕、レナちゃんに何も買ってない」
「ああ・・そうだったか」
「どうしよう、今日ヴァレンタインなのに」
「よし、パパと出かけよう。街へ行けば何か見つかるかもれないぞ」
「うん!」
2人は洗濯物を干しているカテリーナに言って外へ出た。

今日は本当に日差しがあっていい天気だ。昼頃はかなり強くなるが、空気がカラッとしているので嫌な感じはない。
2人はいろいろなお店の立ち並ぶ石畳の通りを歩いた。
ジェラート屋さんにチョコレート、そして雑貨屋さん。お土産らしきものを売っているお店もある。特に甘い香りがする店は要注意だ。見るだけにしても絶対に欲しくなる。
でも・・ジョージにはどれもなんだかイマイチだった。
花屋が見えた。綺麗な花たちがたくさんある。
それを見ていたジュゼッペは何かひらめいたらしく、こう言った。
「そうだ。あそこへ行こう」
「え?」
ジュゼッペはジョージを連れてある町外れの小さな小高い丘にやってきた。
「何があるの、ねえ?パパ」
「見てごらん」
「わあ・・・」
ジョージは目を見開いた。ちょうど向かいの広場一面黄色に染まっている木々が立っている。
「”ミモザ”だよ」
「・・ミモザ・・?」
「好きな女性に贈る花だ。女性の日という言い方は聞いたことあるだろう?」
「うん」
「あれを贈れらた女性は幸せになれるという言い伝えがある。レナちゃんに贈るといい」
この国では3月4日に女性へミモザを贈る習慣がある。「女性の日」だ。まだ2月だが、ジョージには赤いバラよりこちらの方がいいだろう。
「それじゃあ僕、レナちゃんとママにあげよ!」
「そうか、ママにもか。喜ぶぞ。」
ジュゼッペは笑ってジョージの髪をくしゃくしゃにした。
「手強いライバルが現れたな」
「パパ、早く摘もうよ!」
ジョージはそう言うと駆け出し、ミモザの木々の下にやってきた。そして上を見上げた。
ジュゼッペは笑って彼を抱き上げ、そして彼にそれを摘ませた。
「わあ、いい匂いがするよ、パパ」
「そうだな」
ジュゼッペはジョージの手が届きそうな低い枝を選んで歩いた。


ジョージは息を飲んでしばらく目を閉じたが、よし、と決心したように目を開け、トントン、とドアを叩いた。
「はーい。どなた」
出てきたのは、女性だった。
「あら、ジョージ。待っててね」
そう言ってしばらくしてレナがやってきた。
「ジョージくん!」
「こんにちは、レナちゃん。・・あ、あのね」
「え?」
「これ!」
ジョージはレナにミモザの花束を差し出した。家にあった新聞に包んでリボンを巻いただけのシンプルなものだったが、レナには豪華に見えた。ので、嬉しそうに彼に抱きついた。
「わあ、ありがとう、ジョージくん。大切にするね」
「う、うん」
ジョージは照れ臭そうに笑って帽子を直すと、
「じゃ、僕行かなきゃ」
と言って駆け出した。自分の家まではすぐなのだが。
「じゃあね、ジョージくん」
レナは花の匂いを嗅いで中へ入っていった

家に戻ると、ジュゼッペがソファに座って新聞を読んでいた。
そしてジョージの顔を見ると、こう言った。
「お手伝いしてこい」
「うん」
「ああ、あれも・・忘れずにな」
ジョージは台所にいるカテリーナのところへやってきた。
「ママ、僕のすることある?」
「あら、ジョージ。もうあとはテーブルに並べるだけよ。そうね、クロスをかけるのお手伝いしてね」
「あのね、ママ・・」
「なあに?」
ジョージは後ろに隠していたミモザの花束を差し出した。
「はい」
「あら!」
カテリーナはその黄色い花を見ると嬉しそうな表情をした。
「きれいね。ありがとう、ジョージ」
入り口で成り行きを見ていたジュゼッペを見た彼女は、ジョージを抱き上げた。
「素敵なものを素敵な殿方にいただいて、私はなんて幸せ者なのでしょう」
カテリーナはそう言って、ジョージのおでこにキスをし、ジュゼッペと口付けた。
「さ、お昼にしましょう。イワシのスパゲティよ。アランチーニも熱々のうちにいただきましょう」
「うん!」
ジョージは降ろされると皿を並べる手伝いを買って出た。
そして食事の用意が整うと、一家3人の温かで優しいひとときが訪れた。


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『Destiny’s Childー運命の子』
2016-12-25 Sun 13:16

「カテリーナ・アサクラ!」
カテリーナはハッとして顔を上げた。
「・・は、はい」
「何をぼんやりしている」
カテリーナは目の前にいる金髪の目つきの鋭い女を見た。
「申し訳ありません」
「ふん、あの男と結婚してちょっと腑抜けにでもなったか」
女はフッと笑った。
「まあ良い。お前はとても優秀な隊員だ。デブルスターを率い、見事な戦いぶり。司令官にして
よかった。いずれは最高幹部への道も約束されよう」
カテリーナはお辞儀をした。
「身にあまる光栄でございます」
「そうそう・・この前子が生まれたと聞いたが」
「は、はい」
「男だと聞いた、いいことだ。男ならより我々の助けになれよう」
「あの・・あの子はまだ生まれたばかりですが・・」
「生まれたばかり!そうだ、それがいいのだよ。幼ければ幼いほどいい。変に知恵がつく前に教育
させれば余計な心配はいらないからね」
カテリーナは覚悟はしていたが、冷静にこう言った。
「どういうことでしょうか・・」
「それは今にわかることだ。それよりも仕事に専念しなさい。いいね、お前はー」
女はじっとカテリーナを見つめた。
「”冷徹な女司令官”を貫くことだ。部下から馬鹿にされぬようにな」
女はそう言って不敵な笑みを浮かべるとその場から立ち去った。
カテリーナは俯いた。


カテリーナは家路を急いだ。
休みが取れた際にはできるだけ多くの時間を子供と過ごしたい。
ずっと子の顔を見ていたいのだ。
「ああ、カテリーナ。すべて終わったから安心して」
「ありがとう、助かるわ」
彼らが留守の間は、近所の女性たちが息子の面倒を見ていてくれていた。それが長丁場になることもあったが、皆お互い様よと気にしないて引き受けてくれる。
カテリーナは手をきれいに洗うと、すぐさま2階へ上がった。家にいるときは両親と一緒の寝室なのだが、1階よりも安全な2階の部屋に寝かされていた。
カテリーナは微笑むと、眠っているジョージの頬に触れ、そっと抱き上げた。眠ったばかりなのかムズムズ動き出したが、また安心したように静かになった。
カテリーナはベッドに腰掛け、じっと彼を見つめた。
ふと女の言葉が頭をよぎり、彼女は思わず目を閉じた。
「駄目よ!」
カテリーナはぎゅうとジョージを抱きしめた。そして相変わらず眠っている彼を見た。
「思い通りに行くものか。私はこの子を渡さない。絶対に・・」
そしてこう続けた。
「あなたを守るからね」

その日、かなり遅い時間にジュゼッペが帰ってきた。彼はまだやることがあって残っていたのだ。
そして彼もやはり2階に上がってきた。ジョージに会うためだ。
ジュゼッペはその部屋のドアを開け、そしてホッとしたような表情をした。そうか、カテリーナが先に帰ってきていたのか。
彼女は毛布に包まれたジョージを抱いて微笑んでいる。
ジュゼッペは何も言わず、じっとその姿を見つめた。

聖日の夜。町中に人々が溢れ、教会へと続いた。
その丘の上に建つ教会はそう大きくないものの、大勢の人々がやってくる。
その近くには建物の高さを越えるほどのもみの木がそびえ、その頂には輝く星が人々の足元を照らしていた。そして街のいたるところにはプレゼピオが飾られ、電飾も道を彩っている。
人々が教会の中に入り祈りを捧げる中、ジュゼッペと、ジョージを抱いたカテリーナの2人は後ろの方に腰掛けていた。
人には言えない仕事をしている彼らは自然と人目を避けるように過ごすことがすっかり身についてしまった。
それでもこうして教会にやってくるのはある意味懺悔の意味でもある。せめてこうして神様の元へ出向いて自分たちの罪を悔いあたらめようとの思いがあった。
子供の無垢な寝顔は彼らにとって大きな救いだ。この時ばかりは嫌なことはすっかり忘れよう。

説教と讃美歌が終わり、教会から人々が帰り始めた。
ジュゼッペたちもゆっくり会堂を後にした。
やがて歩き出した彼らだったが、それまで眠っていたジョージが目を開いてカテリーナを見上げた。
「あら、起きたの?」彼女は彼の頬に触れた。「なあに?」
ジョージは空に向かって何か言いたそうに手を伸ばした。
空から白いものがちらちらと降ってきた。
「まあ雪ね」
カテリーナは心なしか声を弾ませた。何しろこの島では珍しいからだ。
「綺麗だこと」
そしてふとそんな自分たちを見ているジュゼッペに気づいて彼にこう尋ねた。
「どうかしたの、あなた・・」
「いや・・・不思議な気がしてね。ジョージを抱いている君を見たとき、まるで御子を抱くマリア様に見えたんだ。・・・以前、牧師様がおっしゃってただろ、この子を見て”世を照らす光であれ”と・・なんだか近い将来この子が何かどでかい事をしでかすのではないかと思えてならないんだよ」
カテリーナはまあ、とふふと笑い、ジョージを空高く持ち上げた。彼は無邪気に手足を動かして喜んでいる。
「あなたは私たちのイエス様ね。一体何をしてくれるのかしら?」
両親はこの子が本当にこの世に希望をもたらしてくれるような気がした。それは自分たちをも救ってくれるかもしれない。
彼らは人々に紛れて家路に着いた。

Destiny’s Childー運命の子。
きっと神様が人々に与えた切り札なのだ。
その時が来るのは何年後かはたまた永遠に続くのかー
案外それは早く来るのかもしれない。


Un buon Natale .


         
ー Fine ー




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『ハロウィンの夜は大騒ぎ』
2016-10-31 Mon 18:06

「はあ〜・・・」
夜のスナックJでは甚平とジュンが店を片付けていたが、皿を拭いていた甚平が大きなあくびをしたので、テーブルを拭いていたジュンが振り向いた。
「もう、甚平ったら何よ、大きな口開けて」
「だってさあ・・お姉ちゃん、今日はこんなに暇なんだぜえ・・。あくびくらい出るよ(とまたあくび)」
ジュンは腰に手を当てて口を尖らせた。
「わかってるわよ・・今日はきっとこうなのよ。こんな日もあるわ」
そしてテーブルを拭きながらこうつぶやいた。
「何かいい考えはないかしら。多くの人たちが来てくれるようなものがあればいいのに」
「来てくれるもの・・・」
すると、甚平は何かをひらめいたらしく、こういった。
「ねえ、お姉ちゃん。もう直ぐハロウィンだろ?みんなで劇やろうよ」
ジュンは振り向いた。
「ええ?!劇ですって?大人をからかう気?」
「からかってないよ。・・(お姉ちゃん大人じゃないじゃん)」
「そんな子供じみたこと・・」
「みんな出るって言ったら、きっとお客さんたくさん来ると思うよ・・」
ジュンは甚平のいたずらっ子のような表情を見てため息をついた。確かに彼らが来ればお客さんは増えるだろうけど・・。

「劇?おー、ついにオラの魅力を発揮する時が来たぞい。甚平は見る目があるわさー」
「竜は照明係だよ」
「何い?そんなの客にやらせろや。オラ降りた」
「もう、わかったよ。じゃあ何かやらせるよ」
甚平はブチっとブレスレットを切った。
「ホントに竜はわがままなんだから。役が欲しかったら少しは痩せろってんだ」
甚平はそれから健とジョーにも連絡をした。
「みんなやってくれるのかしら。お子様向きにはできないわよ、夜だもの」
「子供向けじゃないよ」
「あら、そう」
ジュンは奥へと引っ込んだが、いそいそと自室に入って鏡の前に立った。
「・・そうだわー、少し新調しようかしら。ヒロインだもの、当然よね」

「・・劇?・・おい、甚平、真面目に言ってるのか?役者なら他を当たってくれ。俺なんか務まらないよ・・・え?いつも登場する時にハッタリ聞かせてるんだからお茶の子さいさいだろって?・・・ハッタリとは失礼だな。あれでも真面目な口上だ・・(うーん、もしからしたらツケを許してくれるかもしれないぞ。よし、やってやるか)」

「俺は役者じゃなくてハンドル握ってる方がいいんだがなあ。・・ジョーの兄貴は声がいいから女たちがイチコロだって?・・・(すると女の子たちが喜ぶようなことをすれば一発か?ふん、悪くねえな)」

さて、一体どんな内容で誰がどんな役なのだろうか。
それは当日のお楽しみである。
そしてまるでそんなこと聞いてないかのように5人はそれぞれの場所で思い思いに楽しんでいた。
もちろんその間にも敵さんは休ませてくれないのだが、それでもその日の劇の練習兼おしゃべりに毎日のようにスナックJに顔を出した。

そして当日の夜・・・。
スナックJはいつになく若者たちでいっぱいであった。そして言わずもがな、やはりというか女性の比率が高かった。彼らの目当てはあの2人なのだ。
「ほら、竜、焦点が合ってないよ。お姉ちゃん怖いんだからね、ちゃんと当ててよ」
「へいへい。・・くそう、やっぱりオラは照明係かよ。そんでもってお前が監督気取りかいの。やる気失せるわ」
「竜、文句言わない。いいかい、オイラたちは縁の下の力持ちだ。一番偉いんだぞう」
「はいよ(そんなもんかねえ)」

ジュンが姿を現したので、竜は慌てて照明を当てた。
「ああ・・なんて綺麗なお月様。」
「(小声)ほら、竜、黄色いライト」
「・・・ああ、忘れとったわ」
ジュンはちらと2人を見たが、何食わぬ顔で続けた。
「こんな素敵な夜はきっと素敵な方が私の前に現れるかもしれないわ」
『どんな月でもあなたの美しさには敵わない・・』
「誰?」
観客席の奥から黒いマントを羽織った人物が現れた。そしてゆっくりと歩いてきたが、その人はちらと女性客を見ると、ウィンクをした。
「・・・・はあ〜・・・」
女性客はうっとりしてその場にぐったりしてしまった。
ので、竜がこんなことを言った。
「・・ちぇ、カッコつけやがって。本当、やな奴っ」
「ひがまない、ひがまない、竜には逆立ちしたって無理だろ」
「・・・・・はっきり言うわ」
「あなたは・・・あなたは・・一体・・」
『・・トランシルバニアより夜な夜な処女の血を求めここに・・』
「・・ああ、あなたはドラキュラ伯爵・・」
ドラキュラ(ジョー)はゆっくり彼女に近付き、こう囁いた。
『空に輝く無数の星も、辺りに咲き誇る花も皆、あなたを見たら恥ずかしさのあまり隠れてしまうだろう・・』
ドラキュラは彼女の頬を軽く持ち上げ、じっと見つめた。
彼女は目を閉じ、彼に身を任せてじっとしている。
そんな時だ。
「待て!」
客席から一人の男が現れた。
「見つけたぞ、ドラキュラ伯爵。今宵こそ決着をつけてやる!」
ドラキュラはニヤリと笑みを浮かべた。
『これはこれはヘルシング博士。また会いましたな』
ヘルシング博士(健)はゆっくり歩いた。
「その女を離したまえ。この場で消し去ってくれる」
ヘルシングは懐に手を入れると、十字架を握りしめ、伯爵の前に差し出した。
「・・ううっ」
「魔物よ、退散せよ!」
ジュンはゆっくり床に倒れこんだ。甚平と竜はずうとその様子を目で追った。もっとバタッとかっこ悪く落ちればいいのに。とは決して言わない。たとえ口が裂けても。
ヘルシング博士はじっくりと頭を抱えて苦しむドラキュラ伯爵に近づいていった。そんな時である。
「こら!」
何かが飛んできて健の頭にヒットした。皿だ。幸いプラスチックなので割れない。
「ドラキュラ様に何すんの!」
「人でなし!」
健は振り向いた。
「おい、これは芝居だ」
「もう、バカ!」
健は尚も女性達がものを投げてくるので、思わずドアから出て行ってしまった。
「あらら・・」
甚平たちはぼうっとドアを見つめた。
「兄貴、どこ行くんだろう」
と、同じく立ち尽くしてしまったジョーのところに女性たちが寄ってきた。
「もう大丈夫よ、ドラキュラ様♪」
「ねえ〜、私の血を吸って〜」
ジョーは彼女たちを振り払って言った。
「おい、俺はドラキュラじゃえよ!これはお芝居!お・し・ば・い!」
ジョーは彼女たちがなおもまとわりついてくるので、たまらず同じようにドアを開けて逃げ出したが、女性たちも追いかけて行ってしまい、スナックJに静寂が戻った。
「・・なんだったんだ、今の」
ジュンは立ち上がった。
「さ、主役がいなくなっちゃったから、もうお終いにしましょ」
すると、バーン!と勢いよくドアが開いて、男たちが入ってきた。そしてジュンにこう言った。
「ああ、ご無事でしたか!」
「・・え?」
「ドラキュラに襲われたと聞いて・・」
ジュンは驚いた。
「ええ?あ、あれはただのお芝居・・・って今頃来たの?」
すると甚平。
「・・そこ?」
「だって、本当に襲われてたらどうすんのよ!早く来てくれなきゃ」
「そりゃそうだけど・・・」
お姉ちゃんなら心配ないだろ、むしろ魔物の方が逃げるよ。
・・黙ってよ。
とりあえず店は通常通りの営業に戻った。
あの2人はまだ戻ってこないが、きっとほとぼりが冷めた頃に顔を出すだろう。
何しろ今日はハロウィンだ。あんな格好してたって誰も気にもとめまい。
「ああ、終わったと聞いたら急に腹減ったわ。何が食わせてくれい」
「竜は気楽でいいよな〜少しは手伝ってくれよお」
「オラは昔っから留守番と決まってるわさ。だから、ここで健たちを待ってるわさー」
「・・ちぇっ、ちゃっかりしてらあ」

やがてボツボツと客が増え、ジュンは皿を洗い、甚平は客に料理を配って回った。

そして夜も更けていき、街行く人も少なくなっていったが、あの2人がどうなったのか誰も知らない・・・。



ー 完 ー





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