『けんか』
2018-02-12 Mon 10:18

太陽が差し込み、明るい色の壁が白く眩しく輝いた。
珍しく雨が続いていたので、雲から覗く太陽の光がとても強く感じられる。
そして白く反射した石畳をとぼとぼと歩いているジョージの姿があった。
うつむいて見るからに元気がない様子だ。
彼は、少し歩いた場所にある建物の前に来ると、ドアを開けて中へ入った。

ジョージはそのまま廊下を歩き、台所の前に差し掛かったが、そのまま進んで行ってしまった。
そこにはカテリーナが立って何かを煮ていたが、ジョージの気配を感じ、声をかけた。
「お帰りなさい、ジョージ」
「・・・ただいま」
あら?とカテリーナは振り返り、火を止めて廊下へ出た。
いつもなら、帰ってくるなり「ママ〜」と言って抱きついてくるのに。
彼女は廊下を登っていく小さな息子の背中を見つめた。
ジョージはもしかしたら・・。
少し大きくなってしまったのかしら。もう私の手から離れようとしているのかしら。
カテリーナは少し寂しいと思った。子供の成長はきっとこんなものなのだ。
しかし、彼女はジョージの表情がなんだか冴えなかったのを思い出し、後について行った。

ジョージの部屋の戸は開いていた。
カテリーナはそっと覗いた。
すると、ベッドに顔を伏せている彼の姿があった。
ので、彼女はそっと近づき、なるべく静かに声を掛けた。
「ジョージ、どうかしたの?・・お腹でも痛いの?」
カテリーナは少し待ち、そして続けた。
「・・それとも・・お友達と喧嘩でもー」
するとジョージは顔を上げ、突然彼女に抱きついた。
「ママ!」
そして泣き出した。
「あーん・・あーん・・ママ・・レナちゃんと・・喧嘩したんだ・・・」
カテリーナはそっとジョージの髪を撫でた。
「一体何があったの?」
ジョージはカテリーナの胸の中で泣いていたが、やがてしゃくりながら答えた。
「・・・レナちゃんから・・お手紙もらったんだけど・・・どっかいっちゃって・・
嘘ついたの。もらってないって」
彼女は何も言わずジョージの髪を撫で続けた。
「そしたら・・頭を叩かれた。痛くて泣いたら、男の子のくせに!って・・・」
カテリーナはあらあらという表情でジョージを見たが、彼はきっと彼女を見つめた。
「でも、でもママ、レナちゃんを怒らないでね!・・あの・・僕ちっとも痛くなかったから」
カテリーナはクスッと笑った。さっき、”痛い”って言ったのに。
彼女は彼を抱き、ベッドに腰掛けた。
「私は女だから、あなたの気持ちわかってあげられないと思ったけど・・パパがいなくても大丈夫そうね。
それじゃあ、ママから女の立場で言うわね」
カテリーナはジョージの目に溜まった涙をそっと拭った。
「きっとレナちゃんはジョージだけに何かを伝えたかったのね。なのに、あなたは無くしてしまった。
彼女は悲しんだと思うわ。しかももらってないって言われて」
「・・・正直に話したらもっと怒らない?」
カテリーナは首を横に振った。
「あなたが大好きなんですもの、怒らないわよ。むしろ、正直者だと知って喜ぶわよ」
ジョージはちょっと考えて言った。
「僕、パパみたいになれるかな」
「ん?」
「いつも優しいでしょ、ママに」
ジュゼッペはことあるごとにカテリーナにプレゼントを渡したり愛を囁いている。
あらやだ、この子ったらいつも見ているのかしら。
カテリーナは自分を見つめているジョージに微笑んだ。


レナは大きく息を吐いて目をつむった。
彼女が帰ってくるなりずっとこんな感じなので、母親は彼女のことが気になって仕方がなかった。
なので、テーブルに肘をついて元気のない顔をしているレナのところへやってきて声をかけた。
「レナ、どうしたの、さっきからずっと黙って」
「・・・・」
「さては、ジョージくんと喧嘩したのね」
するとレナはハッとしたように彼女の顔を見上げた。
「なんでわかるの、ママ!?」
「ふふ、あなたの顔に書いてあるわ」
ええ?とレナは慌てて顔を触った。まだ小さいので本当に書いてあるのかと思ったのか。
「ママは何年女をやっていると思う?あなたよりずうと先輩よ。あなたのことはわかるの」
レナはまた沈んだ顔をしてうつむいた。
「・・ジョージくん・・レナのこと嫌いなのかなあ・・だって・・・お手紙・・ないって・・渡したのに」
母親は隣に座った。
「ジョージくんは恥ずかしかったんじゃないかしら。きっと嬉しかったのに言えなかったのよ」
「なんで?」
「本当に好きな相手だと気持ちが・・そうねえ、ドキドキして、つい意地悪しちゃうの」
「そっか・・・私・・ジョージくんのこと叩いちゃった・・どうしよう、ママ」
「ごめんなさい、って言いましょう」
「うん」


それからレナの家に向かうジョージの姿があった。彼は後手に何かを隠し持っているようだ。
ドアの前まで来た彼は、ふうっと大きく息を吐いて、トントン・・と叩いた。
「はーい」
母親らしき声がしてドアが開いた。
「あの・・」
「待っててね」
彼女は奥へ引っ込んだ。ジョージは何も言わないうちに行ってしまったので面食らってしまったが、
レナの姿が見えたのでぐっと口をつぐんだ。
「・・・」
「・・・」
「「あのー」」
2人はほぼ同時に声を出した。なので、しばらくして笑った。
「あ、あのね、レナちゃん・・これ」
ジョージは後ろに持っていた花束を差し出した。それは、ちゃんとリボンで飾り付けしたミモザだ。

これは、カテリーナの差し金だ。彼女はレナちゃんにこれを持っていくといいと助言してくれたのだ。
「でもママ、これ、去年も渡したよ。同じでいいの?」
「ミモザはね、好きな相手に贈る花なのよ。あなたを愛していますという意味だから、毎年あげていいのよ。
もう直ぐヴァレンタインでしょう?素敵だと思うわ」
ジョージはミモザの花束を見つめた。そうか、いいんだ。
ヴァレンタインか。それじゃあパパは今年も奮発してママにたくさんのバラを贈るんだな。大人って大変だな。

「レナちゃん、ごめんね。お手紙・・」
「ジョージくん、また書くね!それも今直ぐ」
「今?」
「それから・・・叩いてごめんね」
ジョージはびっくりした。レナからミモザをもらったからだ。
「あのね、女の子も好きな男の子にあげていいんだって。・・・レナ、ジョージくんのお嫁さんになるんだもん」
レナはそう言うと照れ隠しのように彼の手を引っ張った。
「中はいろ。お手紙書くから」
「うん」
2人は家の中へ入っていった。


カテリーナは控え室に入ってふっと息を吐いた。
そしてテーブルの上に置いてある手紙を見つめた。

『Amore mio. カテリーナ、君に贈り物をするよ。外を見て』

カテリーナはカーテンを少しだけ開けた。外はすっかり日が落ちて真っ暗闇だったが、
向かいの建物のある窓から光が点滅しているのが見えた。モールス信号だった。

『愛してるよ』

カテリーナはふっと笑った。
「もう、ジュゼッペったら。カッツェに見つかるわよ」
そして彼に向かって投げキッスをしてカーテンを閉めた。


「ママとパパはヴァレンタインなのに仕事だなんて可哀想だなあ」
ジョージはベッドに潜り込んだ。
「お休みなさい、ママ、パパ」




          ー 完 ー

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『夢』
2018-01-04 Thu 14:30

「動物ってさ、やっぱりおいらたちみたいに初夢とか見るのかなあ」

「なんじゃい、甚平。藪から棒に」

「だってさ、よく言うじゃんか、結構夢見て寝ぼけたり、とかさ」

竜と甚平は、庭先でジョーに尻尾を振りながらじゃれつく犬を見ていた。健とジュンはそれを眺めて笑っている。
ジョーは2人に何か言っているようだ。

ここは博士の別荘だ。お正月気分を覚まそうとみんなでここへやってきていたのだ。
まあ自発的といえば聞こえがいいが、博士が彼らに招集をかけたのだ。そこで退屈していた彼らは集まってきたというわけだ。

「どうだかのう。おおかた、餅の食いすぎで腹いっぱいの夢でも見てるかも」

「だーかーらー、それは竜だろっ」

そんな彼らを見守るようにして座っていた博士は立ち上がった。

「あー、もしかしたらGメカも夢とか見てたりして」

「あ?」

「もしかしたら色々考えてるかもね。ゴッド・フェニックスなんか、竜にダイエットして欲しいって思ってんじゃないの、本当に重たくてしょうがねえや、なんてね」

「機械が夢見たり考えるかい。あほらし」



博士はメカ整備室へ向かった。

ここでは多くの技師たちが正月明けもそこそこに熱心に働いている。

それらを眺めて歩いていた博士は、G−2号機のところに来てあたりを見渡した。休憩しているのだろうか、整備士たちの姿がない。
が、ちょうど前にテレビ画面のようなモニターがあり、消し忘れたのか何かを写していた。
「仕方ないな・・・忘れて」
そしてスイッチに手を伸ばしたが、はたと止めた。
そこには黒塗りの外車が走っていて、颯爽と高原を走り抜けていた。
博士は何気なく点滅している装置に目を移した。そこからはいくつものコードが伸び、G−2号機に繋がれていたが、そこの点滅が時々妙な動きをしているのに気づいた。
まるで何かに反応しているみたいだ。


反応・・?

博士はもう一度モニターを見た。
ドライバーが写っていた。何か喋っている。
ああ、外国のドラマか。

そして画面の中の車は明らかにドライバーの声に反応している。
会話をしているのだ。

G−2号機はまた何か反応していた。



博士が部屋へ戻ろうと廊下へ出るとジョーが歩いてきた。
「博士、あいつ疲れたのか寝てしまいましたよ。またお願いします」
「ああ、わかった。久しぶりに君に会えて嬉しかったんだね。あんなにはしゃいでいるのを見るのは初めてだ」
そして行きかけて続けた。
「ああ、ジョー」
「え?」
「G−2号機を少しばかり乗り回してくれ。性能を試して欲しい」
「あ、はい。何か仕掛けでもつけたんですか?」
ジョーは冗談めいてそう言った。
「いや・・ジョー、たまには話しかけてみたら。機械も長年使っていると魂が宿ると言われている。きっと喜ぶだろう」
ジョーは目をパチクリさせた。博士は突然何を言い出すんだ?
博士は笑って行ってしまい、ジョーは首をかしげてG−2号機のところへ向かった。

G−2号機はジョーに話しかけられてどんな反応するだろうか。

博士は笑みを浮かべた。



「そいじゃあ、お前のヘリコバギーは、わざとぶつけたりしないでもっと大事にしてくれーって思ってんじゃねえの?」

「ふんっ。あれは仕方なかったんだいっ
あいつは強いからちょっとやそっとじゃへこたれやしないやっ」





     
           
ー 完 ー




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『奇跡の鐘』
2017-12-25 Mon 19:00


空は漆黒の闇に包まれている。
だが、家々の軒先には明かりが灯り、それが心を暖かくしてくれる。
風が冷たいが、道行く人々には笑顔が浮かんでいた。

ジョーはそんな彼らをちらと見たが、特に気に留めない様子で歩き続けた。
(なぜ毎年この頃になるとこうして歩きたくなるんだろうなあ)
彼はそう思って足を止めた。そして目の前に建つ、教会を見つめた。

それはとんがり屋根の先に十字架をつけたシンプルな作りの建物だったが、入り口にそびえ立つもみの木、そして中から聞こえるオルガンの音が荘厳だ。

そうだ、なんだか歩きたくなるのは、教会があるからだ。
子供の頃は親に連れらて来ただけしか思い出がないのに、今となっては無性に懐かしく感じる。

なぜあんなに嫌がってたんだろう。今考えると不思議だ。

と、ジョーはそのもみの木の下で一人で遊んでいる男の子が目に止まった。7、8歳くらいか。
こんなところで・・と彼はなるべく驚かせないように彼に近づいた。

「坊主、こんなところでいていいのかい?お父さんやお母さんは?」

すると男の子は少しも驚く様子もなくまっすぐジョーを見上げた。
「中にいるよ。つまんないから抜け出してきちゃった」

オルガンの演奏が聞こえてきた。中では礼拝が行われているのだ。
ジョーは笑ってしゃがんだ。

「俺も、お前くらいの時、つまらなくて抜け出したよ」

すると男の子は目を輝かせた。
「お兄ちゃんも?」

「ああ。確かに説教も退屈だな」

「うん、眠くなる」

2人は顔を見合わせて笑った。

「お兄ちゃんは、神様見たことある?」

「え?・・いや、ねえけど・・」

「そう。どんな人かな、優しい人かなあ」

「さあね」


「ジーノ!」

そこへ女性が息を切らしてやってきた。

「ママ」

「ダメでしょう、こんなところにいては」

ジョーはその子の母親か、と安堵した。そして女性と目があった時、ハッとした。
凛とした顔つき、ダークブラウンの輝く髪・・。
(・・おふくろ・・?!)

「あの・・どうかしましたか」

ジョーは我に帰り、不思議そうに自分を見つめる女性を見た。

「い、いえ、なんでもありません。すみません」

「お兄ちゃんがお話ししてくれたから平気だったよ」

「そう。よかったわね」

「またここに来たのか」

「あ、パパ」

男性はジョーを見た。彼は髭を蓄え、強面の男だった。
そしてじっとジョーを睨むように見つめたので、彼はぐっと息を飲んだ。ここは直感からかやたらなことをしてはいけないと考えた。
が、女性が事情を話すと、男性は顔を緩ませた。
「そうか」

と、鐘が鳴り出した。

親子は教会を振り返った。ジョーも十字架を見つめた。光を放ち、もみの木も電気が灯った。

「さ、行くか」

「ええ」

「じゃあね、お兄ちゃん」
男の子の灰色がかった青い瞳が輝いた。

「元気でな」

ジョーは両親に手をつながれて歩いていく男の子の様子を見つめた。
そして賛美歌が聞こえてきたため、また教会に目を向けた。
聖歌隊が礼拝から帰る人々を送るために並び、歌を歌っている。

ジョーは親子の後ろ姿を見ようと視線を戻したが、眉を寄せた。

「・・え?」

すでに3人の姿はなかった。
この道はずっと遠くまで見渡せる。目を離したのはわずかな時間だ。

(確かに向こうへ・・・)


(ジーノ!)

”ジーノ”とは、ジョルジオ(ジョージ)の愛称だ。
カテリーナの自分の呼ぶ声が聞こえる。


(・・・・・)


ジョーの頬に温かいものが流れた。

鐘が鳴り響いた。
彼の両隣を人々が過ぎてゆく。時には笑い、皆笑顔で。

ジョーは涙をぬぐい、背中を押されるように歩き出した。


メリー・クリスマス。

世の人々の心に平安があるように。



( Buon Natale, mamma, papà. )



          
ー Fine ー



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『約束』
2017-09-29 Fri 18:00

夜も更けた頃、ベッドから起きた甚平は鼻を動かした。
「あれえ、すんげえいい匂いがする・・・なんだろう?」
そして階下へ降りると、カウンターで何やら作業をしているジュンの姿があった。
彼女はオーブンを覗き込み、焼き具合を確認しているようだ。
「お姉ちゃん」
「あら、甚平。ごめんね、起こしちゃった?」
「ううん、いいよ。何だい?えらくたいそうなお料理じゃんか」
ジュンは笑った。
「ふふ、そうなの、せっかく教えてくれたレシピだもの。ちゃんと作れるようにならないと怒られちゃうわ」
「ああ、そうだね、もう1年になるのか・・・」
甚平はそう言って俯くと、ジュンも同じように悲しげな表情で俯いた。
霧深い草むらの上で、ジョーは彼らに惜別の言葉を一人一人にかけ、そして彼らの知らないうちに旅立って行ってしまった。
甚平は鼻をすすり、そして冷蔵庫から何かを取り出した。
「おいらも、実は教えてもらったレシピ作ってみたんだ」
「なあに?」
それは銀のトレイに凍った茶色いものだった。
「これをね、フォークでザクザクとやって・・」
甚平は大雑把に砕いたそれをガラスの器に盛り付けた。
「これはね、”グラニータ”と言って、いわばかき氷みたいなものだって。これはあらかじめ作っておいたグラニュー糖のシロップにコーヒー(主にエスプレッソ)を混ぜ、冷蔵庫で凍らせただけで作れるんだ」
「へえ、簡単なのね」
とちょうどオーブンからチン!という音が聞こえた。
「できたわ!」
「お姉ちゃんのは?」
「”イカの香草パン粉オーブン焼き”よ」
「わあ、すげえ」
甚平は、ジュンが取り出したオーブン皿の上のイカに目を丸くした。
「これってね、ほとんど手間がかからないの」

”イカの香草パン粉オーブン焼き”の手順はこうだ。

1 イカに塩胡椒をふりかけ、オリーブオイルをまぶす。
2 ボウルに衣の材料(パン粉、ニンニク、イタリアンパセリ、乾燥オレガノ、パルミジャーノをすりおろしたもの)をすべて入れ、よく混ぜる。
3 1のイカを2の衣に軽く押しつけながらよくまぶす。
4 オーブン皿に並べ、上からオリーブオイルを軽くかける。
5 180度のオーブンで約8分、軽く焼き目がつくまで焼く。

ジュンはそれをナイフで一口大に切り分けた。
「あら、柔らかい。ねえ、甚平、味見してみて」
「え?いいの?」
「モチよ」
甚平はフォークで1つ刺すと口へ運んだ。いつもならば彼女の作った料理にはケチをつけて口にしないのにこの時はどういうわけか躊躇なく食べた。
「うまいよ!お姉ちゃん!」
「本当?」
ジュンは同じように口へ運んだ。
「あら、ほんと」
「・・さてはお姉ちゃん、おいらに毒味させたな」
「まあ、毒味だなんて失礼ね」
「おっと、これ溶けちまわないうちに食べなきゃ」
甚平はグラニータに手を伸ばした。
「ま、ごまかして」
「お姉ちゃん、これもうまいよ」
ジュンは一口口に入れた。
「本当だ。大人の味ね」
「よかったね、成功して。これでホッとしているんじゃない」
「そうね・・」
2人は微笑みあった。


まだ午前の日差しの強くない頃、誰もいない海岸をひたすら走っている竜の姿があった。
そしてそれを彼の父親と弟の誠二が見ていたが、やがてこんなことを言い出した。
「竜兄(あん)ちゃん、どうしたんだろう。結構頑張ってるよ?」
「ん、竜もあれでなかなか頑固なやっちゃだからのう。やっぱり友達に言われたのが効いてるんだべ」


そしてとある日の夜。じっと夜空にかかる月を眺めていた健は、庭に停めてあるセスナ機に近づいた。
そして彼はセスナ機に飛び乗り、エンジンをかけた。
それは勢いよく飛び上がり、星のきらめく夜空に浮かぶように飛び始めた。
しばらく無言だった健は、空を見上げながらこう言った。
「どうだい?今日も綺麗な星空だ。・・お前が望んでいた空だぜ。見えるだろう?」
やがてそうやって飛び続けた健はレバーを引き、また今来たコースを戻るように旋回した。そして下を見下ろして顔をほころばせた。
そして降下し、元の位置に戻った。建物の先にはジュン、甚平、そして竜の3人がもう集まっており、テーブルを準備していた。
「やあ、もう集まったのか」
「健が戻ってくるのを見計らってきたのよ。きっと飛んでいるだろうって」
「もう腹減って仕方ないぞい」
「待ちなよ、竜。ねえ、兄貴、見てくれよ!これ、お姉ちゃんが作ったんだぜ!」
テーブルの中央にある白い皿の上にはこんがりと焼けていい匂いをさせているイカの香草焼きが並べられていた。
「へえ、ジュンが作ったのか」
「イカは竜が新鮮なものを持ってきてくれたのよ」
「そんでねえ、これはオイラが作ったんだ」
「すごいな」
「そんじゃあ皆揃ったから始めるぞい」
「うん」
「「いただきまーす」」
4人は立食パーティーよろしく各々食べ始めた。
ジュンはじっと息を飲んで健が食べるのを見つめた。彼はそれに気づいてこう言った。
「うまいじゃないか、ジュン」
「本当?健」
「ああ、きっと喜ぶぞ」
ジュンはいつもなら自分が褒められたわけじゃないことに怒るところだが、彼の思いを察して微笑んだ。
「本当?だといいんだけど」
「うんうん、うんめえわさ。ジュン、これならもう安心じゃい」
「大食らいの竜が褒めてるぜ、よかったね、お姉ちゃん」
ジュンは涙をぬぐった。
「私だけじゃないわ。きっと・・力を貸してくれたのよ」
「まあ・・お姉ちゃん一人じゃこんなにうまくできないもんね」
「ま!言ったわね」
ジュンは甚平の額を小突いた。
「イテッ、自分で言ったんじゃんか」
「おいおい、2人とも。相変わらずだと笑ってるぞ」
「なんだよ、兄貴。ジョーの言葉が聞こえるんなら言ってくれよ、笑ってないで降りてきて食ってみてよって」
健は目を伏せたが、笑って甚平を見た。
「甚平が寝静まったら来るってよ」
「ええ?」
竜とジュンは顔を見合わせた。
「健が来るんじゃろ」
「あら、それじゃ全部食べなきゃ」
2人は小声で言ったが、健に愛想笑いをした。
健はやれやれと頭を振った。

食事が終わると面々は芝生の上に腰掛け、夜空の星々を眺めた。竜は相変わらずというかやっぱりというかいびきをかいて大の字で寝ていたが、3人は大して気にせずにいた。
「綺麗ね・・・」
「ああ」
「そういえば、兄貴はジョーの兄貴に何しろって言われたの?」
「・・・特になかったなあ、宿題」
「えー、ずるいや〜」
「ふふ、ジョーと健はね、もう何も言わなくても通じる仲なのよ」
「へえ、お姉ちゃん、妬かないの?」
「別に」
「強がっちゃって!」
「うるさい!」
健はじっと輝く星たちを見つめた。
「・・・・」
あいつは・・・

”最後の最後まで迷惑をかけちまったが、おめえにはいろいろ感謝してるぜ・・・”

「・・・ジョー・・・」

”最後まで説教か?”


「俺は奴を見るとすぐに小言を言うと思って余計なこと言わなかったじゃないのかなあ」
「そうだよ!あのときだって怒ってさ。ばかやろうっとか言って。ほんと、兄貴って素直じゃないんだから」
健は甚平の頭を小突いた。
「こいつ、生意気言いやがって」
「へへへ」
すると背後で竜の声がした。
「う〜ん・・・もう食えねえ・・・」
「まあ」
「しょうがないなあ、竜は」
3人は笑ってまた夜空を見上げた。
「またこうして会おうぜ。あいつも来てくれるだろうからな」
「そうだね、また5人一緒にいようよ」
3人の頭上では星々が瞬いた。まるで返事をしているかのように・・・。




  
ー 完 ー




今回のお話は以前書いたフィクのアンサー編です。合わせてどうぞ → 『夢の中へ








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『血筋』
2017-05-06 Sat 10:46

木々の間を尋常ないスピードで駆け抜ける影があった。
そして足を止め、何かを投げつけた。
「まだまだね」
カテリーナはそう呟くと枝を軽々と登り、その投げたものを幹から抜いた。
そして辺りを見渡すと、はるか遠くの方に視線を固定させるとまた投げた。
「ママ〜!」
カテリーナは下を見下ろした。ジョージが駆けてくる。
「そこで何してるの?」
彼女はちょっと微笑んだが、ハッとした。先ほど投げたものが何とジョージめがけて飛んでいたからだ。
「ジョージ!」
カテリーナは青ざめ、木から飛び降りると駆け出した。
ジョージはぽかんとして立ち止まったが、目の前の自分に向かって飛んでくるものを見るとキッと鋭い目つきになり、手を差し出してそれをしっかり掴んだ。
カテリーナはジョージを抱きしめた。
「ジョージ・・」
ジョージはカテリーナが離れると、手にしたものを渡した。
「ママ、お花投げちゃだめだよ。可哀想でしょ?」
「あ、ああ、そうね・・そうよね」
カテリーナは金属製のそれを見つめた。それは「薔薇爆弾」という彼女たちデブルスターの
武器のひとつだ。むろん、扱いを間違えるとその場で暴発する。
「ねえ、ママ」
「え?」
「それ、僕も投げていい?」
カテリーナはかぶりを振った。
「だめよ、子供のおもちゃじゃないの」
「投げてみた〜い〜」
ジョージはカテリーナの服を掴んでせがんだ。
「ジョージ」
しかしジョージはすっと隙を見て彼女の手から奪い取り、どこかめがけて投げてしまった。
「あっ・・」
それは木のてっぺんまで届き、木の枝を折って下へ落ちた。
「うわあい、ママ、あんな上まで届いたよ!」
カテリーナはじっと枝が突き刺さった薔薇爆弾を見つめた。
「・・・・(なんて正確な技なの・・起爆装置外しておいてよかったわ)」
薔薇爆弾は蕾状態であった。それを花開かせると起爆装置が働き、衝撃を受けると爆発する仕組みである。
ジョージは新しいおもちゃが手に入ったかのように嬉しそうだ。それを手にしてまだ投げた。
カテリーナはその正確さに感心したが、不安げな表情で無邪気に自分を呼ぶ息子に力なく微笑んだ。


ジョージが寝静まった頃、1階の居間ではジュゼッペとカテリーナの2人がソファでテレビを見ていた。が、2人の目には画面は映っていない感じでぼんやりしていた。昼間の出来事をカテリーナから聞いてジュゼッペも黙っていたのだ。
「・・・あいつにはやっぱり俺たちの血がしっかり入っているということか」
「・・・・」
「上の方がジョージを狙ってきている。時間がないかもしれない」
カテリーナは俯いた。
ジュゼッペは黙って彼女を見つめたが、カテリーナはすくっと立ち上がって暖炉の上のある写真立てを手にした。そこには生まれたばかりのジョージを抱いて微笑む彼女と彼女を支えるジュゼッペが写っていた。
カテリーナはじっと見つめていたが、やがてこう言った。
「・・・いつかはこの子も事実を知ってしまうのかしら。そして私たちを軽蔑するのかしら」
「それともー」
彼女はジュゼッペを見た。
「同じように手を血で染めるようになるのか」
「・・・・」
「あいつは俺たちの血を受け継いでいるからな・・」

2人は幹部として働く身として組織内の色々な仕組みを知っていた。知っている限り他の幹部は自分の子をギャラクターの戦闘員として養成するところへ送り出している。しかもそれは彼らの意思ではなく全て上からの指令である。そして子らは何も知らず洗脳されて悪事と知らず言われた仕事を命をかけてこなすのだ。

ある日、ジュゼッペは拳銃を手にすると、庭で蝶を追って駆け回っているジョージの元へやってきた。
ジョージは彼に気付かないのか、相変わらず蝶を追いかけていたが、あ、と言って立ち止まった。
蝶が蜘蛛の巣にかかってしまったのだ。ジュゼッペは何も言わずだた見ていたが、ジョージは彼の方を向くと、その手を見た。
「パパ、それ貸して」
「・・えっ?」
しかし彼が何を言われているのか理解する前にジョージは拳銃を奪うように取り、蜘蛛の巣めがけて撃った。
それはちょうど上下に分かれるように糸を切り、蝶が絡んでいた部分が地面に落ちた。
「はい」
ジョージは拳銃をジュゼッペに返すと、糸が落ちた場所に行き、しゃがんで解き、蝶を
逃した。そして飛びだった蝶を見て満足そうに言った。
「蜘蛛さんはかわいそうだけど、蝶さんは助かったよ。ね、パパ」
「・・あ、ああ・・」彼はジョージを見下ろした。「そうだな・・ジョージ・・いつの間にこれを覚えたんだ」
「わかんない」
「・・・・」
ジュゼッペはじっと息子を見つめた。彼は糸を出して巣を作り直している蜘蛛を見ている。
多分ジョージは自分が撃っているのをどこかで見ていたのだろう。なるべく彼には気付かれないようにしてたつもりだったのだが。
カテリーナも訓練中を発見されてしまった。両親の血を受け継いでいるのならその腕にきっとギャラクターは目をつけるだろう。
(ジョージ。その腕は、決して悪事に使ってはいけない。悪事から人々を救うために使うんだ。それが・・お前が生きる道だ。・・俺たちの子として生まれた運命として)
ジュゼッペは拳銃を懐にしまった。教えるまでもなかったな。
彼はなんとも言えない思いで彼を連れて家へ戻った。


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