『パパの友達』
2018-07-14 Sat 11:05

年中温暖な気候の島の夏は日差しが強い。
降り注ぐその光を浴びて、街中の建物は白く輝いている。

観光客のゆく中、走り回っている2人の子供がいた。
彼らはとにかく器用に大人たちの間をすり抜け、はたまた出店の主人をからかったりと
もうすっかり自分たちの遊び場にしていた。
と、そんな彼らの前に男たちが立っていたが、よそ見をしていたジョージは彼らに
ぶつかってしまった。
男たちは道を塞ぐように立っていたのでまるでわざとぶつかったかのようにも見えた。
ジョージとアランは恐る恐る男たちを見上げた。2人の男たちはガタイもよく、
ポケットに手を突っ込み、サングラスをかけた状態で見下ろしている。
「おい、ガキども、何しやがる」
アランはとっさにジョージの腕を掴んだ。
「あー、ごめんなさい!」
そしてジョージに言った。
「ジョージ、逃げよう」
「なんで?」ジョージはアランを見た。「わざと立ってて邪魔したんだよ」
「何い?」
アランは慌ててジョージを引っ張り、駆け出した。
そして後ろも振り向かず、ひたすら走り続け、男たちが追ってこないのを確かめると、
ゆっくりと歩いた。
そして2人はしばらくしてそれぞれ帰途についた。


ジュゼッペは腕を組み、窓から外を眺めていた。
そしてドアが開いて男2人が入ってきたが、振り向かずそのままの姿勢で立っていた。
男たちはサングラスを取った。
「ボス、遅くなりました」
「どっかのクソガキに手を焼きまして」
ジュゼッペは鼻で笑った。
「ふん、子供相手に大の大人がだらしないな」
「ちょっとばかりしごいてやろうかと思ったんですが、それがすばしっこいやつでして・・」
「子供相手にムキになるな。後々面倒なことになるぞ」
「はっ」

と、そこへドアが開いて入ってくる人物があった。
ジュゼッペは部屋に入ってきたジョージを見た。
「ただいま〜」
「おかえり、ジョージ」
ジュゼッペは抱きついてきたジョージの頭を撫でた。
「ははは。帰ったらちゃんと手を洗ってうがいをしなさい。ママがおやつを作って待っているぞ」
ジョージはうんと返事をしたが、男達といえばなんとも情けない顔をしてジョージを見ていた。
「・・・・」
「あ、兄貴・・・」
「しっ」
ジョージは男達の方を向いた。そして目を見張った。
「あれ?さっきのー」
「あー!!」男の一人はにこやかな表情で言った。「おぼっちゃまですかー、おかえりなさいませ!」
「さあ、こちらへ。ちゃんと綺麗に手を洗いましょう」
もう一人もやたら明るい声を出してジョージに言った。
「手ぐらい自分で洗えるよ」
ジョージはこう言うと、さっさと洗面所へ向かった。
男達はハーッと大げさなくらい大きな息を吐いて冷や汗を拭った。
「ねえ」
「は、はいっ」
ジョージは手をちょいちょいと動かし、手招きをした。
男達は顔を見合わせたが、何食わぬ顔でジョージの方へ向かった。
ジュゼッペはふふんと笑ってまた外に視線を戻した。

少し歩いたところでジョージは立ち止まり、2人を見上げた。
「ねえ、さっき会ったよね」
すると2人は気をつけの格好をして頭を下げ、恭しくこう言った。
「先ほどは大変失礼いたしました!」
「おぼっちゃまとはつゆ知らず、ご無礼をー」
ジョージは顔をしかめた。
「ねえ・・どうしてそんな変な言い方すんの?パパのお友達なんでしょ?」
「ああ・・あー、お友達・・そ、そうなんすよ〜はい」
「ねえ、サッカーしない?夕方までまだいるでしょ」
「はい、喜んでお供します!」
ジョージはやっぱり変なおじさんたち、と彼らを見た。
ま、いいか。
2人はそれからジョージの遊びに付き合わせられることになってしまった。
多分誤算である。

「あー、もうこんな時間。今日はここら辺でー」
「遊んでくれなきゃ、パパに言いつけちゃうから!」
「ひえ〜、それだけはご勘弁を!」
変な人たち。

「ねえ、パパ。パパのお友達って変なしゃべり方だね」
「お友達?・・あ、ああ、そうだね。あいつらは昔からあんな感じなんだ。」
友達だと思ってくれてればいい。ジュゼッペはジョージの頭を撫でた。



男達がジュゼッペの部屋を訪れたのはだいぶ夜も遅くなってからだった。
夕飯が終わってもジョージの遊び相手に付き合わされていたからだ。その本人は
もうベッドの中だ。
ジュゼッペは壁にある鏡越しにドア近くで待機している彼らを見て笑った。
明らかに苦労の跡が見えるからだ。
「お前たちにはとんだ災難だったな」
「いえ、災難だなんてとんでも無いことです」
すると子分の一人が真剣な表情で言った。
「ボス。素直な可愛らしいお子さんです。・・・で、やっぱりゆくゆくは入れるんですか」
「・・・・」
ジュゼッペは口をつぐんだ。
ギャラクターの者はどうあがいても子孫共々ギャラクターだ。
いずれは組織に入れなければならない。皆そうしてきた。
彼はじっと夜景を見つめた。





           
ー 完 ー



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『思い出の羽根手裏剣』
2018-06-02 Sat 10:46


ベッドに横たわったジョーはズボンの裾を開けて1本の羽根手裏剣を手にした。
そしてそれをじっくり眺めていた彼は、苦笑いをした。
「まさかこの原型を作ったとはな・・」


その日は家族揃っているという久しぶりの日だった。
両親はギャラクターという組織の幹部として任務についている。
だがそれは息子には知らされず、どこか遠くへ仕事に行っているということになっていた。
幹部という役職柄、留守にすることが多く、時間でやってくる家政婦以外は幼い子供一人だ。

そしてここの主人、ジュゼッペが息子ジョージと男同士、話でもしようと階段を上がっていたその時だった。
「バン、バン!」
突如銃声が鳴り響き、彼は思わず忍ばせている拳銃を手にし、ジョージの部屋へ向かった。
「ジョージ!」
彼は開いている部屋に入った。
「大丈夫か!」
しかし、当のジョージは振り向き、笑顔を見せた。
「なあに?パパ」
銃声はテレビから聞こえてきた。どうやらアメリカの西部劇らしい。保安官らが次々と男たちを倒している。
「あ、ああ、いや・・・なんでもない」
ジュゼッペはそっと拳銃をしまって何食わぬ顔をした。
「ジョージ、そんなもの子供があまり観るもんじゃないぞ」
「うん。でも、パパ。このガンマン、かっこいいよ!僕も大きくなったら、こんな風に悪いやつ倒したいな!」
ジュゼッペは息子の屈託のない笑顔を見て、かすかに笑みを浮かべた。

その後、ジュゼッペはジョージを連れて庭へ出た。久しぶりに親子でサッカーをしようというのだ。まあサッカーと言っても、2人で交互に蹴り合いをするだけなのだが。
そんな彼らをしばらく見守っていたカテリーナは家に入った。
そして階段を上がり、ジョージの部屋へ入って掃除を始めた。男の子の部屋にしては小綺麗にしている。
そして床を掃いていたカテリーナは、何かがぶつかってコロコロ・・と自分の方に転がってきたものに目を留めた。
「あら・・これは」
それは、羽根ペンだった。
が、それを手にした彼女は眉をひそめた。
羽の部分はそれのだったが、先には小刀がついていて、明らかに細工したものだった。
これは売っているものなのだろうか。いや、羽根の先は切られ、刃を糸が何かで巻き付けた単純なものだ。

カテリーナは、外から戻ってソファで寛いでいるジュゼッペの元へやってきた。
「ねえ、あなた・・」
「ん?」
ジュゼッペはカテリーナが差し出したものを手にした。
「どうしたんだ?これは前にジョージにあげた羽ペン・・・・」
そこでジュゼッペは口をつぐんだ。刃に気づいたのだ。
彼はじっとそれを見つめていたが、やがて重々しい口調で言った。
「・・・あいつはやっぱり俺たちの子だな」
カテリーナはうつむき、キュッと唇をかんだ。
「・・・どうした?大丈夫か」
「私は・・」彼女は震えていた。「私は、あの子を、殺人鬼にしたくないわ!」
「・・・」
「普通の子として生きてはいけないの?・・あの子が・・不憫すぎるわ」
ジュゼッペは何か言おうとしたが、カタン、と物音が廊下から聞こえてきたため、そちらに視線を移した。
「・・・ジョージ・・」
ジョージはちょっと離れるようにして立っていた。そしてこう叫んだ。
「・・パパもママも、喧嘩しないで」
ジュゼッペは笑って言った。
「はは・・喧嘩なんてしてないよ、ジョージ」
「僕が悪いことしてたなら謝るよ!だから・・・」
カテリーナはとうとう泣き出したジョージをぎゅうと抱きしめた。
「いいの・・いいのよ・・・あなたは悪くないの・・ごめんね、ジョージ」
「ママ・・・」
ジョージはふとジュゼッペの手にしているものを見て、彼のところへやってきた。
「パパ、それ僕のだよ!」
「ジョージ、すごいな、作ったのか?どうやったんだ」
「内緒!」
「ふーん?」
ジュゼッペはジョージを抱え込んでくすぐり始めた。
「教えないもーん・・・」
カテリーナはクスッと笑い、台所へ向かった。今日も手作りのドルチェを作っていたのだ。
彼女はそれを彼らのところへ持ってきた。
「さあ、もう終わり。おやつにしましょう」
カテリーナは微笑んだ。


ジョーは顔を引き締め、それを天井へ放った。それは空を割き、シュッと音を立てて突き刺さった。
「ギャラクターの血が入ってようが、関係ねえ。そいつを生かして奴らを潰す。それだけだ!」
彼はじっと羽根手裏剣を見つめた。
「・・必ず・・」

そして目を閉じた。



              
ー 完 ー




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『イースターエッグ』
2018-04-01 Sun 16:24

健は博士の書斎のドアを叩いた。
返事はない。が、彼はドアを開けて中へ入った。
やはり誰もいない。

「あれ、ジョーがいたと思ったけど」

健はジョーがいたと思われる机に近づくと、あれと思った。
そこには2個卵があったのだ。

「なんだろう、この卵。ジョー、また勝手に台所から持ってきちゃったのかな」

ジョーは来た当初よりは収まったものの、この別宅ではかなり好き放題にやっているという話だ。
そして今度は健がやってきたということでいたずらがまた増えた。
おそらく一人でわがままできたのに、もう一人いるんじゃ相手にしてくれない。ジョーは多分健にライバル意識を持っているに違いないが、健もそして本人もそれに気づかないでいた。

それにしても・・

ぐぐぐぐ〜っ

「お腹すいたなあ」

健はお腹を押さえ、その卵に手を伸ばした。ゆで卵のようだ。
どうしよう。

しかしその次の瞬間には殻を向き、むしゃむしゃと食べ始めてしまった。塩気が欲しい感じだったが、お腹が空いている彼はそれはどうでもよかった。

でも、と健はふと机上の物に気づいた。
そこにはクレパスと何色か揃ったサインペンのセット。

あ。これってもしかしてー

そこへドアが開いてジョーが入ってきた。

「うっ、う・・」

健はあまりの出来事に胸を叩いた。黄身が喉に引っ掛かりそうになったのだ。

「・・・・」

まずい、ジョーの奴、俺を見てるぞ。卵を食べたな、そんな顔つきだ。

ジョーはつかつかと歩いてきた。何をする気だ。俺を叩くのか。よし、もしそうなら俺もー

と、ジョーはもう一個をつかみ、同じように殻をむいて食べ始めた。
「・・ふん、半熟だ。これじゃイースターエッグに向いてない」

そして彼は健の殻も集めて紙に包んだ。
「またもらってこよう。お前も描くだろ、絵」
「う、うん・・・」

ジョーは部屋を出て行った。
健はほうっと息を吐いた。


「おばちゃん、卵半熟だったよ。もっとかた茹でにして」
「あらまあ、坊ちゃん、食べちゃったの?」
「うん。お腹すいたんだ」

その後新しい卵に2人は思い思いの絵を描いた。
そしてそれは博士の書斎の机にあるカゴに並べられた。

新しい年が素敵になりますように。
そんな願いを込めて。



                     ー 完 ー

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『ペンダント』
2018-03-10 Sat 11:00

ギャラクター島と呼ばれたその島はあれからだんだんと元の風光明媚な島へと戻りつつある。
時々画面に映るそれの景色は海の青と広々とした草原、そして色とりどりの建物。
きっと観光客が詰めかけ明るさを取り戻していくだろう。

よかった。戻ってきた者たちは心からそう思った。

そして南部博士の部屋では健がいつものように報告を行っていたが、彼はこう博士の背中に言った。

「博士は・・ご存知だったんですね。ジョーの事」
健がマリンサターン号での話をした時、博士は少しも動じず頷きながら聞いていたのを思い出したのだ。
「直感だよ」
博士は窓から泳ぐ魚たちを眺めながら答えた。
「いくらギャラクターとはいえ、ごく普通の一般市民にあのような残忍な行為をするはずはないだろう、と」
そして一旦置いて続けた。
「ではなぜ彼らは殺されたのか?きっと只者ではないだろう。もしかしたら、ギャラクターの関係者
ではないだろうか?」
健はじっと博士の背中を見つめた。
「これはおそらく組織を裏切ったために殺られたに違いない。ーそう考えたのだ」
「それで島から誰にも知られないよう連れてきたんですね」
博士はやっと健の方へ向いた。
「そうだ。ともすればジョーも狙われてしまうからな」

ジョーといえば、ここユートランドに戻ってきてからはしばらくトレーラーハウスの自宅内で
静養するよう言われていたのでそこにいた。まあもっとも、彼の性格から言ってじっとしているはず
はなく、時々は車をぶっ飛ばしていた。やれやれ、である。

そして彼はだいぶ良くなったので博士のもとへ顔を見せに出向いた。
博士はそんな彼を見ると微かに笑みを浮かべ、コーヒーを出した。
そして目を閉じてコーヒーの香りに身を委ねているかのようなジョーに話しかけた。
「元気そうだ。もういいのか」
ジョーは博士を見上げた。
「ええ。・・・ご心配おかけしてすみません」
博士は笑った。
「君の向こう見ずなところには慣れているよ。変わらんな」
ジョーは口角を上げた。
「博士にはいつも俺を助けてもらってばかりですね」
「ジョー。・・君のご両親はきっと上の役職についていたんだろう。君がしているそのペンダント、
中の写真を見せてもらった時にそう思ったのだが」
ジョーはTシャツの下にあるペンダントを取り出し、ロケット部分を開いた。
そこには、両親と自分が写っている。両親は2人ともスーツ姿であったが、ジュゼッペはサングラスを掛け
ちょっと怖い顔をしてこちらを見ている。
「君はお父さん似だな」
「(笑う)ふ、そうみたいですね。そのおかげでギャラクターに追い回されましたよ」
思えばジュゼッペは外出するときはいつもサングラスを掛けていた。単に日差しが眩しいからだと思ってたが、
敵に悟られないようにしているためだったのか。
それで自分がその格好をして狙われる羽目になろうとは。
「だが、お母さんの芯の強そうな顔立ちにも似ているな」
「お袋は・・きっとデブルスターの中心人物だったと思います。子供の頃、何かを投げて訓練している様子を
見たことがありますから」
ジョーは視線を落としたが、再びペンダントを見つめた。
「でもその頃はそれが何であるかわからなかった。俺はてっきり遊んでいるのかと思い自らも投げたいと
言っていた。今思えば、きっとお袋は困っていただろうな」
博士はじっとジョーを見つめた。
「ジョー・・ご両親を恨んではいないか?」
「・・え?」
ジョーは顔を上げた。
「悪の組織に加わってたなんて、内心は穏やかでないだろう」
「大丈夫ですよ、博士」ジョーはしっかりとした目つきで博士を見た。「少なくとも子供の頃は楽しかったですし、
2人とも・・自分を愛してくれましたから」
博士は何も言わず、静かにうなづいた。



ジョーはじっと考えていた。ずっとベッドの端に腰掛けていた彼は、そこへ横たわった。

(恨みたければ、地獄へ行ってー)

恨みなんか・・

いや、恨んでいる。ギャラクターを、だ。
親父とお袋を俺から奪った憎い相手だ。
ジョーはバン!と拳をもう片方の手のひらで受け止めた。

絶対に倒してやる。


ジョーは足元を見下ろした。そして脚にすり寄せて甘える子猫のルナを抱き上げた。
「そうだ、今日は特別なものを作ってやるぞ。お袋が作ってくれた料理をアレンジしてやる。
お前にも味わってほしいんだ」
ルナは返事をするかのように小さく鳴いた。
ジョーはそのままキッチンへと向かった。



            ー 完 ー


   

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『けんか』
2018-02-12 Mon 10:18

太陽が差し込み、明るい色の壁が白く眩しく輝いた。
珍しく雨が続いていたので、雲から覗く太陽の光がとても強く感じられる。
そして白く反射した石畳をとぼとぼと歩いているジョージの姿があった。
うつむいて見るからに元気がない様子だ。
彼は、少し歩いた場所にある建物の前に来ると、ドアを開けて中へ入った。

ジョージはそのまま廊下を歩き、台所の前に差し掛かったが、そのまま進んで行ってしまった。
そこにはカテリーナが立って何かを煮ていたが、ジョージの気配を感じ、声をかけた。
「お帰りなさい、ジョージ」
「・・・ただいま」
あら?とカテリーナは振り返り、火を止めて廊下へ出た。
いつもなら、帰ってくるなり「ママ〜」と言って抱きついてくるのに。
彼女は廊下を登っていく小さな息子の背中を見つめた。
ジョージはもしかしたら・・。
少し大きくなってしまったのかしら。もう私の手から離れようとしているのかしら。
カテリーナは少し寂しいと思った。子供の成長はきっとこんなものなのだ。
しかし、彼女はジョージの表情がなんだか冴えなかったのを思い出し、後について行った。

ジョージの部屋の戸は開いていた。
カテリーナはそっと覗いた。
すると、ベッドに顔を伏せている彼の姿があった。
ので、彼女はそっと近づき、なるべく静かに声を掛けた。
「ジョージ、どうかしたの?・・お腹でも痛いの?」
カテリーナは少し待ち、そして続けた。
「・・それとも・・お友達と喧嘩でもー」
するとジョージは顔を上げ、突然彼女に抱きついた。
「ママ!」
そして泣き出した。
「あーん・・あーん・・ママ・・レナちゃんと・・喧嘩したんだ・・・」
カテリーナはそっとジョージの髪を撫でた。
「一体何があったの?」
ジョージはカテリーナの胸の中で泣いていたが、やがてしゃくりながら答えた。
「・・・レナちゃんから・・お手紙もらったんだけど・・・どっかいっちゃって・・
嘘ついたの。もらってないって」
彼女は何も言わずジョージの髪を撫で続けた。
「そしたら・・頭を叩かれた。痛くて泣いたら、男の子のくせに!って・・・」
カテリーナはあらあらという表情でジョージを見たが、彼はきっと彼女を見つめた。
「でも、でもママ、レナちゃんを怒らないでね!・・あの・・僕ちっとも痛くなかったから」
カテリーナはクスッと笑った。さっき、”痛い”って言ったのに。
彼女は彼を抱き、ベッドに腰掛けた。
「私は女だから、あなたの気持ちわかってあげられないと思ったけど・・パパがいなくても大丈夫そうね。
それじゃあ、ママから女の立場で言うわね」
カテリーナはジョージの目に溜まった涙をそっと拭った。
「きっとレナちゃんはジョージだけに何かを伝えたかったのね。なのに、あなたは無くしてしまった。
彼女は悲しんだと思うわ。しかももらってないって言われて」
「・・・正直に話したらもっと怒らない?」
カテリーナは首を横に振った。
「あなたが大好きなんですもの、怒らないわよ。むしろ、正直者だと知って喜ぶわよ」
ジョージはちょっと考えて言った。
「僕、パパみたいになれるかな」
「ん?」
「いつも優しいでしょ、ママに」
ジュゼッペはことあるごとにカテリーナにプレゼントを渡したり愛を囁いている。
あらやだ、この子ったらいつも見ているのかしら。
カテリーナは自分を見つめているジョージに微笑んだ。


レナは大きく息を吐いて目をつむった。
彼女が帰ってくるなりずっとこんな感じなので、母親は彼女のことが気になって仕方がなかった。
なので、テーブルに肘をついて元気のない顔をしているレナのところへやってきて声をかけた。
「レナ、どうしたの、さっきからずっと黙って」
「・・・・」
「さては、ジョージくんと喧嘩したのね」
するとレナはハッとしたように彼女の顔を見上げた。
「なんでわかるの、ママ!?」
「ふふ、あなたの顔に書いてあるわ」
ええ?とレナは慌てて顔を触った。まだ小さいので本当に書いてあるのかと思ったのか。
「ママは何年女をやっていると思う?あなたよりずうと先輩よ。あなたのことはわかるの」
レナはまた沈んだ顔をしてうつむいた。
「・・ジョージくん・・レナのこと嫌いなのかなあ・・だって・・・お手紙・・ないって・・渡したのに」
母親は隣に座った。
「ジョージくんは恥ずかしかったんじゃないかしら。きっと嬉しかったのに言えなかったのよ」
「なんで?」
「本当に好きな相手だと気持ちが・・そうねえ、ドキドキして、つい意地悪しちゃうの」
「そっか・・・私・・ジョージくんのこと叩いちゃった・・どうしよう、ママ」
「ごめんなさい、って言いましょう」
「うん」


それからレナの家に向かうジョージの姿があった。彼は後手に何かを隠し持っているようだ。
ドアの前まで来た彼は、ふうっと大きく息を吐いて、トントン・・と叩いた。
「はーい」
母親らしき声がしてドアが開いた。
「あの・・」
「待っててね」
彼女は奥へ引っ込んだ。ジョージは何も言わないうちに行ってしまったので面食らってしまったが、
レナの姿が見えたのでぐっと口をつぐんだ。
「・・・」
「・・・」
「「あのー」」
2人はほぼ同時に声を出した。なので、しばらくして笑った。
「あ、あのね、レナちゃん・・これ」
ジョージは後ろに持っていた花束を差し出した。それは、ちゃんとリボンで飾り付けしたミモザだ。

これは、カテリーナの差し金だ。彼女はレナちゃんにこれを持っていくといいと助言してくれたのだ。
「でもママ、これ、去年も渡したよ。同じでいいの?」
「ミモザはね、好きな相手に贈る花なのよ。あなたを愛していますという意味だから、毎年あげていいのよ。
もう直ぐヴァレンタインでしょう?素敵だと思うわ」
ジョージはミモザの花束を見つめた。そうか、いいんだ。
ヴァレンタインか。それじゃあパパは今年も奮発してママにたくさんのバラを贈るんだな。大人って大変だな。

「レナちゃん、ごめんね。お手紙・・」
「ジョージくん、また書くね!それも今直ぐ」
「今?」
「それから・・・叩いてごめんね」
ジョージはびっくりした。レナからミモザをもらったからだ。
「あのね、女の子も好きな男の子にあげていいんだって。・・・レナ、ジョージくんのお嫁さんになるんだもん」
レナはそう言うと照れ隠しのように彼の手を引っ張った。
「中はいろ。お手紙書くから」
「うん」
2人は家の中へ入っていった。


カテリーナは控え室に入ってふっと息を吐いた。
そしてテーブルの上に置いてある手紙を見つめた。

『Amore mio. カテリーナ、君に贈り物をするよ。外を見て』

カテリーナはカーテンを少しだけ開けた。外はすっかり日が落ちて真っ暗闇だったが、
向かいの建物のある窓から光が点滅しているのが見えた。モールス信号だった。

『愛してるよ』

カテリーナはふっと笑った。
「もう、ジュゼッペったら。カッツェに見つかるわよ」
そして彼に向かって投げキッスをしてカーテンを閉めた。


「ママとパパはヴァレンタインなのに仕事だなんて可哀想だなあ」
ジョージはベッドに潜り込んだ。
「お休みなさい、ママ、パパ」




          ー 完 ー

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