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『短冊』
2019-07-07 Sun 11:30

甚平は最後の何かを置くと、言った。
「ねえ、お姉ちゃん、見てよ。こんなのどう?」
ジュンは彼からそう遠くない場所で戸棚の中の食器を整理していた。
「え?何よ」
彼女は甚平の見せた器を覗き込んで特に表情を変えることなくこう言った。
「そうめん?ありきたりじゃないの」
すると甚平は人差し指を立ててよく外国人がやるように彼女の前で振った。
「チッチ・・これ、”七夕”メニューさ。そうめんは天の川に見立てるんだぜ」
「へー」
「で、オクラ」
「オクラ?七夕とどういう関係があんのよ」
「切り口が星型をしている」
「そうなの?知らなかったわ」
「だろうね」
「・・え?」
「とにかくこうして天の川のそうめんの周りに置けば・・どうだい?お姉ちゃん」
「なるほど!すごいわ、甚平!」
甚平は物珍しそうに見ているジュンを見てやれやれとため息をついた。
(お姉ちゃんも少しはやってみればいいのに)
「ねえ、甚平、味見していい?」
「いいよ」
と、そんな時入り口が開いて健たちが入ってきた。
なのでジュンは思わずこんなことを呟いた。
「いいタイミングで来るわねえ」
「兄貴の鼻には特別なセンサーが付いてんじゃないの?」
すると健。
「え?何だ?」
「ううん、なんでもないよ」
「健、甚平が特別メニューを作ったのよ」
「へえ」
「なんだ、そうめんだわ。これじゃ腹の足しにもならんぞい」
「何言ってんだい、竜。これはね、天の川なんだよ」
「ああ・・そういえば七夕だなあ」
「アジア特有の風習だろ」
とジョー。
「ああ。七夕といえば・・・確か、仕事をサボって・・金がなくて食いっぱぐれるって話だったか?」
「兄貴じゃあるまいし!」
するとジョーが言った。
「あれだろ、仕事をサボって、怒られて罰として恋人に会えなくなっった、というー」
「ふーん」竜は水を飲んだ。「そんじゃ仕方ないわ。甚平、水くれ」
「もうっ」
「自業自得とはいえ、なんだか可哀想ねえ」
「可哀想なもんか、仕事サボるからだ」
「甚平は厳しいのお」
「あたぼうよ、こちとら仕事して稼がないと払えない客がいるから大変なんだよっ」
健は思わず飲んでた水を吹き出し、ジョーは苦笑いをした。
「ねえ、バイトの金どこへ行っちゃうのさ、本当にもらってんの?」
「もらってるよ・・でもいつの間にか羽が生えちまうんだ」
「維持費とかバカになんねえからな」
「そうそう、わかってくれるねえ」
「兄貴たちは変なことで気があうんだから」
「似た者同士ですもんね」
健たちが彼女を、え?という顔をしてみると、ジュンは済まして奥へと姿を消した。
彼女が次に姿を見せた時には何やら手にして戻ってきた。
「ねえ、みんなで書いてみない?」
ジュンはテーブルに糸のついた短冊を並べた。
「願い事かあ・・」
甚平は手に取るとこう言った。
「ねえ、これはどうだい?”お姉ちゃんが料理できますように”」
「ま、そんなのお店に飾れないわ!」
「そうかの?おらは・・・もっとジュンが優しくしてくれますように・・」
「どうして私ばっかなのよっ、しかも私がまるで意地悪みたいじゃない」
「それじゃあ、これはどうだ。”この店がもっと繁盛しますように”」
すると甚平。
「うーん・・微妙・・っていうかさ、もっと夢はないの?」
「ギャラクターの滅亡が本望だけど、夢とはちと違うな」
「世界平和、じゃありきたりだしな」
そういえば、と彼らはふと気づいた。若者らしい夢らしい夢というのが自分たちは考えてこなかった。
ギャラクターを倒す、このことだけが彼らの生きる力になっていた。
スナックJに来る若者たちはきっとそれぞれ明るい未来を思い描いているのだろう。
そんな彼らが羨ましいと思うと同時にそれが自分たちの願いでもあると考えた。


七夕当日、スナックJの店内に笹が飾られ、近くに箱が置かれて中にまっさらの短冊が入っていた。
筆が何本が置いてあって、自由に願い事を書いてください、とあった。
そして笹には1本の短冊が吊されていた。そこにはこう書いてあった。

『みんなの願いが叶いますように!ー店主一同より』


店には続々と若者たちがドアを開けた。




           ー 完 ー



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『La colomba(鳩)』
2019-04-21 Sun 12:30


眼下に広がる真っ青な海を見渡す丘の上、いつものようにフェンスにもたれるようにして眺めている
ジョージとレナがいた。
彼らはしばらくずっとそうしていたが、チチチ・・とかすかな声が聞こえたので、そこに目をやった。
そこには小さな羽をばたつかせているこれまた小さな雛らしきものがうごめいていた。と、そこへ
1匹の野良猫がやってきて、その雛に襲い掛かった。そして咥えて持って行こうとしたその時、
ジョージは近くにあった小枝を手にし、そこへ飛び出した。
「だめ!離して!」
猫は驚いて雛を離し、その場を後にして駆けて行った。
「ああ・・よかった」
2人は雛に駆け寄り、しゃがんだ。そしてジョージは両手でその子を持ち上げ、覗き込んだ。
「・・生きてる?」
ジョージはじっと雛を見つめた。雛は目を開け、またチチチ・・と鳴き出した。
「うん、大丈夫」
「どうしたのかなあ、この子・・。一人なのかな・・」
「うん・・パパとママいないのかな」
2人はあたりを見渡した。行くかうのは人ばかりだ。飛んでいる、といえばカラスくらいだ。
「ここに置いたらやられちゃうよ。僕たち交互に面倒見ようか」
「うん・・でもママが鳥アレルギーなの。レナはいいんだけど・・」
「いいよ、僕んちで面倒見てあげるよ」
「本当?よかった・・」
レナは嬉しそうに笑った。ジョージも彼女をみて同じように笑った。

さて、ジョージはそうは言ったものの家の前まで来ると立ち止まった。鳥の雛を抱えてきたのを見て
ママは何て言うだろう。
「返してきなさい!」
それとも・・
「かわいそうね、いいわ、パパには内緒ね」
ジョージははあ、と大きく息を吐いて意を決したようにドアを開けた。
「ただいま」
カテリーナは台所だ。家にいるときは大抵ここにいてドルチェや特別な料理を作っている。
ジョージはそのまま通り過ぎた。
「ジョージ?」
カテリーナは手を止めることなくそう言った。
「帰ってきたの?」
彼女は顔を上げ、ようやく手を止めて廊下を伺った。
そして階段を上った。

ジョージは部屋でベッドに座って鳴き続ける雛を見つめていた。
そこへカテリーナが入ってきた。ジョージは隠す様子もない。
「・・・一人で鳴いてたんだ、ほんとだよ」
カテリーナはしばらく見つめていたが、部屋を出て行ってしまった。
ので、ジョージは顔を上げて、不安そうな顔をしたが、彼女は何かを持ってきた。
「そのままじゃかわいそうよ。ここにいれてあげて」
カテリーナは編んで作られた小さなカゴに綿のようなものを敷き詰めたものを持ってきたのだ。
そして、そこに雛を置くように差し向けた。
「どこかに巣があったのね。そこから落ちてしまうのはよくあることよ」
「大丈夫かな」
「そうね・・お水とかあげましょう。餌になるものも与えれば元気になると思うわ」

ジョージはそれからと言うもの、水をあげたり、ミミズや毛虫などを捕まえてきては雛にやった。
カテリーナがいないときは家政婦に見守られながら可愛がっていた(最も家政婦は遠巻きに見ている
感じだったが)。

やがて季節が一巡し、春めいた頃だった。
陽だまりの中目を覚ましたジョージはカゴの中に雛がいないのに気づいて跳ね起きた。見ると、
窓に1羽の鳥が羽を動かし鳴いている姿があった。
「ほっほー、ほっほー」
それはアオバトだった。雛は鳩の子だったのだ。
「どうしたの」
ジョージが近づくと、鳩は彼をちらとみて、そして翼を広げ、あっという間に空へ飛び立った。
「あっ」
鳩はしかし引き返してしばらくジョージのそばを飛び回った。
そして今度こそ遠くへと行ってしまった。
ジョージの肩にそっと手が置かれた。いつの間にかカテリーナがそばにいたのだ。
「もう帰る時が来たのね」
「・・・うん・・・」
カテリーナはジョージに視線を落とした。泣くだろうと思ったのだが、彼は不思議と清々しい表情で
じっと鳩が飛び立った方向を見つめていた。
鳩はしばらくジョージの近くで飛んでいた。同じように別れが辛かったのだろう。元気になった姿を
見せたかったのかもしれない。


4月。街は色とりどりの花が飾られ、あちこちに卵のオブジェが置かれた。パスクワ(イースター・復活祭)
が始まるのだ。
ミステリ(キリスト復活を表した人形が置かれた台)と呼ばれる大きな山車が街中を練り歩く。
春のおとづれを祝うかのように一気に活気付く。

ジョージは復活祭が嬉しかった。ジュゼッペもカテリーナもいるからだ。そしてこの日は特別なドルチェが
テーブルに上がる。色彩豊かなドライフルーツの飾られたカッサータやマジパンで作られた本物そっくりな
レモーネやリンゴ、羊も並んでいる。
ジョージはそんな中、コロンバを手に取った。平和のシンボルである鳩を象った発酵菓子だ。

チチチ・・・・ホッホー

ジョージは鳴き声のする方を見た。窓に1匹のアオバト。
あの子だ。
彼は思わず近寄った。
「どうしたんだ?」
ジュゼッペは怪訝な顔をしてカテリーナを見たが、彼女は笑って頷いた。

「一緒に復活祭お祝いできてよかった」
ジョージはアオバトと並んだ格好で外の賑わいを眺めた。

ミステリを引く人々を見つめ、ジョージはコロンバを口の中に放り込んだ。
島に春の風が穏やかに吹き始めた。

「さあ、お料理が冷めてしまわないうちにいただきましょう」
「はーい」
ジョージが離れると、鳩も空へと飛び立った。




          ー  完  ー



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『お出かけ』
2019-02-22 Fri 18:00


ジョーは窓から外を眺めた。そして開けた。
するとスッと風が入り込み、彼の髪を優しく撫で、ふわりと波打った。
日差しは強くなったが、まだ空気はひんやりする。

「にゃー、にゃー・・」
ジョーは足元を見てもぞもぞうごめいているものを抱き上げた。
「よう、ルナ。おはよう」
彼はおでこにキスをした。
「今日はいい天気だ、どこか行こうか」
ルナはまるでジョーの言葉がわかるかのようにニャーと鳴いた。
「よし、その前に腹ごしらえだ。おいで」
彼がベッドから降りると、ルナは彼の後をついていった。


ジョーはGー2号機に近づいた。
そして左腕についているブレスレットを外すと、グローブボックス内にしまった。
「せっかくのデートだからな」
そしてそばをうろついているルナを抱き上げて、ドアを開けた。
「よし、出かけよう」
ジョーはハンドルを握り、アクセルを踏んだ。


道路には車1台も走っていない。自分の青い車体だけだ。
やがて車は丘の上にやってきた。
ジョーはそこでブレーキをかけ、ルナを抱えて外へ出た。
彼女を置くと、目の前に広がる草原に向かって駆け出した。
「おいおい、あまり遠くへ行くなよ」
彼は笑いながらゆっくり進んだ。
ここはジョーにとってはお気に入りの場所だった。
何かむしゃくしゃする時やちょっと一人になりたい時にはここへやってくる。
無論、レース場でかっ飛ばす方がスッキリするが、やはり風に吹かれて自然を愛でていると心が癒される。
まるで故郷のように。

ジョーは寝そべった。今日は雲ひとつない晴天だ。
彼は目を閉じた。そしてそのまま眠りについた。


うふふふ・・・・

遠くで女の子の声が聞こえた。

いやだ、まだ寝ているの?ジョージくんったら。

「え?」

ジョーは目を開けた。そして起き上がって見渡した。
周りは黄色い花でいっぱいだ。
あれ?花なんか咲いてたっけ?
しかもそれはミモザだ。

「・・・ルナ?どこへ行ったんだ」

ジョーは立ち上がり、歩き出した。そして周りの光景を見つめた。
どこか懐かしい感じがする・・。

すると彼の目の前に男の子と女の子が花の中で遊んでいる姿が飛び込んできた。
ジョーは女の子を見た。
(・・・レナ・・ちゃん・・?)
するとこの男の子は・・。
そう、2人は幼い頃の自分と幼馴染のレナだった。
しばらくジョーは笑い合って楽しそうに花輪を作っている2人を見つめた。


「にゃ〜、にゃ〜」
ジョーは目を開けた。ルナが自分の顔を舐めている。
ジョーはしばらく考えたが、やがて体を起こした。そしてルナを抱き上げると立ち上がった。
「やれやれ、夢見ちまったよ」
しかも、子供の頃の自分たち。
ジョーは微かに笑った。
ルナは小さく鳴いた。まるで返事をするように。いや、単に鳴いているだけか。

ジョーはルナを車内に離し、ドアを閉めてキーを回した。
そして再びアクセルを踏み、道の上を走らせた。




             
ー 完 ー




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『お導き』
2018-12-25 Tue 00:00

「ねえ、ジョー」
トレーラーに遊びに来ていた甚平はともに島名物の菓子を食べた後、こう言った。
「おいら、本物のクリスマスって知りたいんだ。兄貴は全然話になんないし、お姉ちゃんや
竜だってダメっぽいし」
ジョーはマグを置いて顔をしかめた。
「え・・?俺だって、そんなにー」
が、彼は甚平へ視線を向けた。
「ああ、そうだ。一緒に礼拝に行くか?少しはどんなもんかわかるだろ」
「本当?やった〜」
甚平は喜んだ。ジョーはそんな彼を見てそんなもんかね、と思って微かに笑った。


当日。
教会へ続く道はたくさんの人々が歩いていた。
そして彼らは引き寄せられるように次々と礼拝堂へと入って行った。
中は広く、たくさんの机と椅子が並んでいる。教会の机は長細く、その後ろの机には前の方に椅子部分があって、
そこで人々は腰掛けて説教を聞いたり賛美歌を歌ったりするのだ。

正面に飾られた大きな十字架の前にはろうそくの火が灯っている。全部で4本。当日から数えて4周目前から
1本つづ点けていくのだ。
これは「アドベント(待降節)」と呼ばれ、キリスト生誕を待ちわびる儀式だ。
「ふーん、カウントダウンみたいなもんだね」
甚平はそう言ったが、ジョーは顎に手をやった。
「・・ちょっと違うけど・・」

やがて荘厳なオルガンの音が鳴り響き、礼拝が始まった。
牧師が招詞(しょうし・招きの言葉)を述べ、皆で『主の祈り』を唱した。

『天にまします我らの父よ、願わくは御名を崇めさせ給え。御国を来らせ給え。
御心の天になる如く地にもなさせたまえ。我らの日用の糧を今日も与え給え。
我らに罪を犯す者を我らが許す如く、我らの罪をも許し給え。
我らを試みにあわせず、悪より救い出したまえ。国と力と栄えとは限りなく
汝のものなればなり。アーメン』


礼拝は、賛美歌を歌い、祈り、そして牧師の説教を聞くというスタイルだ。
賛美歌では、オルガンの音色が会堂に響き渡り、雰囲気を味わせてくれる。
特にこのクリスマス時期になると、待降節やご降誕の歌が多くなるので、気持ちも雰囲気も
自然と引き締まる。

「神は独り子を賜ったほどに、この世を愛してくださった」

そんな中、幼い子供の洗礼式が行われた。今年生まれたのであろう。
ジョーはそれを見ているうちに遠い昔を思い出した。
「俺も赤ん坊の頃洗礼を受けたと親から聞いた」
「ねえ、赤ん坊が生まれると必ずやるのかい?」
「そうだな・・・特に俺の国はカトリック教国だから、皆生まれると連れてくる。ここでもやっているのか。
知らなかったな。別にカトリック信者の国じゃないはずなのに」
「へえ。おでこに水つけてら。あれならわかんないね」

洗礼には教会のやり方が色々あるが、水をつける方法と、その名の通り水を張った箱状のものに身を沈める方法が
ある。
洗礼とは、それまでの自分の罪や咎を洗い流し、新しく生まれ変わる、という意味の儀式である。

やがて聖餐式(せいさんしき)が行われた。
信者が前に進み出て、跪きキリストの肉と血を授かる、という儀式だ。

「えー、肉と血って・・」
ジョーは笑った。
「たとえだよ。肉は”パン”で、血は”ぶどう酒”だ」
甚平ははあっと大きく息を吐いた。
もちろん実際には、ぶどう酒の部分はお酒ではなく、ぶどうジュースが一般的だ。

見ると、次々と人々が進み出ている。こんなに信者がいたなんて。2人はそんなことを考えて見ていたが、
やがて甚平は言った。
「ねえ、ジョーは行かないの」
「・・ああ・・洗礼を受けたのは赤ん坊の頃だし、ずっとご無沙汰してるからなあ」
「いいから、行きなよ!イエス様に怒られちまうぜ?」
ジョーは笑った。
「わかったよ」
甚平は前の方へ歩いていくジョーの後ろ姿を見てやれやれという表情をした。
「ったくう・・世話がやけるなあ」
しばらくして彼らの隣に座っていた老婦人が声をかけてきた。
「坊やは洗礼をまだ受けてないの?」
「えっ・・・ああ、そうなんです・・」
「今日はご兄弟だけで?ご両親は?」
「あ、あの、2人とも忙しくて」
「そう」彼女は微笑んだ。「偉いわね、2人だけでも出席して」
甚平はなんだか照れくさそうに笑った。

会堂前には大きな木でできた十字架がつけられていた。
ジョーはじっと見つめた。
なんだお前は。今頃きたのか。
そんな声が聞こえてきそうで彼は苦笑いをした。
そして一方ではある親友の顔が浮かんできた。

(俺がこんなところに来るのは場違いだったことわかってるさ。だが、やっぱりお前に詫びなきゃいけないっていう
何かの導きなのかもしれねえな・・今更許してくれなんていうつもりはねえけど)

席に戻ったジョーは甚平を見て言った。
「おい、甚平。なんだよニヤニヤしやがって」
「別にー」
「気持ち悪いな・・」


礼拝が終わり、人々は次々と教会を後にした。
甚平は先ほどの老婦人と目が合うと、会釈をした。隣の老人は旦那だろうか。
「ねえ、ジョー。おいら達兄弟に見えるらしいよ」
「え?・・嘘だろ、全然似てねえじゃねえか」
「でもあのおばあちゃんはおいら達のこと兄弟だと思ってるよ」
「それじゃあ、健やジュンと来ればよかったな」
「でもさ、さっきも言ったけど、あの2人は期待はずれだから」
「あいつらが聞いたらどんな顔するかな」
ジョーは苦笑いをした。

と、教会庭に立っている、もみの木に足を止めた。まるで教会と競っているかのようにすくっと伸びている。
枝にはたくさんリンゴが吊るされ、てっぺんには星が輝いている。
この星は”ダビデの星”と呼ばれ、クリスマス当日につけるのが本来の形だ。リンゴの赤色はもみの木の緑とともに
永遠の命を表している。
「ありがとう、ジョー。楽しかったよ」
「そうか?それはよかった」
「クリスマスは教会が一番だね!」
ジョーは甚平の心底満足したような表情に笑みを浮かべた。子供の頃の自分はといえば、両親の目を盗んで
抜け出そうとしてたのに。

2人は聖歌隊の歌声に押されるように今来た道を歩いて行った。
上空では星々がひときわ強く光り輝いていた。



    
          ー  完  ー







           
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『憂鬱な悪魔たち』
2018-10-31 Wed 18:00

バー「Black JUN」。いつものように魔界の若者たちで賑わっているーとならず、
カウンターではいつものようにしけた顔でちびちび赤い液体を飲む若い悪魔たちがいた。

「やれやれ、このトマトジュースも飽きたなあ」
「早く認められて生き血を飲みたいぜ」
角も立派な、顔立ちのはっきりした眉目秀麗な2人がそう言うと、カウンターで皿洗いをしていた
小さな子供の悪魔が続けた。
「ムリムリ、魔王様はオイラたちのことこき使うばっかりでちっとも優しくないじゃんか」
「何言ってんの、ジンペイ!」隣にいた緑色の髪が特徴の美女が言った。「魔王様は何かお考えがあって
きつくしているのよ。悪く言うもんじゃないわ」
「お姉ちゃん、そう言うけどねー」
「まあまあ、ジンペイ。魔王様はあれでも十分俺たちを思ってくれているさ」
「ふっ、さすが優等生のお答えだな、ケン」
「ジョーだって頭が上がらないくせに」
すると、カウンターの隅にいた相撲取りのような体格の悪魔が言った。
「そんなことよりもっと食えるもんないんかいのお。これじゃ腹にたまらんわ」
「文句言うなよ、リュウ。もうこれっきりしかないんだ」
「けっ、しけた店だわ」
「ま、何よ、リュウ!文句あるんなら出て行ってもらうわよ!」
「おお、おっかねえ」

さて、この5人の若者たちは、魔王お抱えの部下たちとあって一目置かれている、ということになるのだが、
いかんせん血気盛んな若い連中なのでやることが雑で荒っぽいところがあるため、魔界ではちょっと遠巻きに
されていたりするのだ。

ちょっとだけ紹介すると、

ケンー荒くれどもを率いるリーダー。恋沙汰には疎く、また真面目すぎるきらいはあるが、腕はめっぽう強くハッタリも
ピカイチ。

ジョーー彫りが深く眼光が鋭いちょっと強面だが、動物に弱い面も。喧嘩っ早いのが玉の傷。ま、いいか、
悪魔だから。

ジュンーメンバーの紅一点。黙っていれば目鼻ぱっちりの美女だが、怒らせると鬼より、いや魔王より怖い。
ケンが全くトンチキなので最近は愛想を尽かしている。

ジンペイーメンバーの最年少。頭が切れ、小回りが利く。ジュンを姉と慕っている面もある子どもらしい面があるが、
それで気を許すと大変な目にあう。

リュウーメンバー1の大食漢。大きな体を生かして悪い奴らをなぎ倒す・・って悪魔じゃないじゃん。

こんな感じだ。


ピーピーピー

ケンは腕にはめたブレスレットのドクロ部分を押した。
「はい」
『ああ、ケン。他のみんなもいるかね?』
「ええ、いますよ、魔王様」
『至急私のところへ来給え』
「はい」
ケンは同じようにブレスレットを聞いていた4人に言った。
「聞いてのとおりだ、行くぞ」
「ラジャー」

魔王は背中を向けていたが、彼らがやってくるとくるりと顔を向けた。
「ああ、早かったな」
「何か緊急なことでも?」とケン。
「もしかして魔物たちが反逆を起こしたとか」
ジンペイがそう言うと、ジュンもすかさず聞いた。
「そうよ。魔王様、どこかの良からぬ者達が魔王様の御命を狙っているのですね」
「い、いや・・そうではない」
「じゃあ、なんです?」
ジョーがそう言うと、魔王はしばらく間をおいて、威厳のある声でこう言った。
「散歩だ」
「・・・は?」
「散歩に行くので周りを歩いてくれ」
「ああ?またあ?」
リュウが思わずそう言ったのは理由(わけ)がある。
自分たちを侍らせるためだ。
背の高い男前の2人や美女、可愛い子供に力持ちの優男が歩くだけで皆ゆくゆくはそれだけの権力があるのだ、
などと思ってくれるという自慢だ。

しかし魔王は知らない。実は彼らは魔界きっての札付きで本当は恐れられているということを。
なので、そうとも知らずこちらを見てヒソヒソ話をしている魔界の住人たちを眺めて一人悦に浸っているのだ。
で、5人は、というと魔王に近づかないように追いはらうふりをして仕方なく付いて行っている感じだ。

しかし、そんな彼らではあるが、やはり見た目は美形だったり愛嬌があったりするので、中には嬉しそうな
顔をしている連中もいた。

魔界の時計が鳴り響いた。
魔物たちが途端に同じ方向に歩き出す。今宵はハロウィン。年に一度のお祭りの日だ。人間界へ出かけ、
そこの生き物たちを脅かす楽しみがあるのだ。

「人間界へ行くか」
「うわあい、魔王様、いろんなところへ遊びに行っていい?」
ジンペイは子供らしく無邪気に顔をほころばせた。
「あまり無茶をするんじゃないぞ」
「わかってるよ」
「また去年みたいに迷子にならないでよ、ジンペイ」
「大丈夫だってば」
(美女の血でも飲みたいもんだな・・)
「こら、ジョー。大人になってからだ」
ジョーは魔王が振り向かずにそう言ったので、思わず顔をしかめた。
「・・ちぇっ」
ケンは笑った。

そして魔王と5人の若者の悪魔は人間界へ繰り出していった。



             ー 完 ー



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