『約束』
2017-09-29 Fri 18:00

夜も更けた頃、ベッドから起きた甚平は鼻を動かした。
「あれえ、すんげえいい匂いがする・・・なんだろう?」
そして階下へ降りると、カウンターで何やら作業をしているジュンの姿があった。
彼女はオーブンを覗き込み、焼き具合を確認しているようだ。
「お姉ちゃん」
「あら、甚平。ごめんね、起こしちゃった?」
「ううん、いいよ。何だい?えらくたいそうなお料理じゃんか」
ジュンは笑った。
「ふふ、そうなの、せっかく教えてくれたレシピだもの。ちゃんと作れるようにならないと怒られちゃうわ」
「ああ、そうだね、もう1年になるのか・・・」
甚平はそう言って俯くと、ジュンも同じように悲しげな表情で俯いた。
霧深い草むらの上で、ジョーは彼らに惜別の言葉を一人一人にかけ、そして彼らの知らないうちに旅立って行ってしまった。
甚平は鼻をすすり、そして冷蔵庫から何かを取り出した。
「おいらも、実は教えてもらったレシピ作ってみたんだ」
「なあに?」
それは銀のトレイに凍った茶色いものだった。
「これをね、フォークでザクザクとやって・・」
甚平は大雑把に砕いたそれをガラスの器に盛り付けた。
「これはね、”グラニータ”と言って、いわばかき氷みたいなものだって。これはあらかじめ作っておいたグラニュー糖のシロップにコーヒー(主にエスプレッソ)を混ぜ、冷蔵庫で凍らせただけで作れるんだ」
「へえ、簡単なのね」
とちょうどオーブンからチン!という音が聞こえた。
「できたわ!」
「お姉ちゃんのは?」
「”イカの香草パン粉オーブン焼き”よ」
「わあ、すげえ」
甚平は、ジュンが取り出したオーブン皿の上のイカに目を丸くした。
「これってね、ほとんど手間がかからないの」

”イカの香草パン粉オーブン焼き”の手順はこうだ。

1 イカに塩胡椒をふりかけ、オリーブオイルをまぶす。
2 ボウルに衣の材料(パン粉、ニンニク、イタリアンパセリ、乾燥オレガノ、パルミジャーノをすりおろしたもの)をすべて入れ、よく混ぜる。
3 1のイカを2の衣に軽く押しつけながらよくまぶす。
4 オーブン皿に並べ、上からオリーブオイルを軽くかける。
5 180度のオーブンで約8分、軽く焼き目がつくまで焼く。

ジュンはそれをナイフで一口大に切り分けた。
「あら、柔らかい。ねえ、甚平、味見してみて」
「え?いいの?」
「モチよ」
甚平はフォークで1つ刺すと口へ運んだ。いつもならば彼女の作った料理にはケチをつけて口にしないのにこの時はどういうわけか躊躇なく食べた。
「うまいよ!お姉ちゃん!」
「本当?」
ジュンは同じように口へ運んだ。
「あら、ほんと」
「・・さてはお姉ちゃん、おいらに毒味させたな」
「まあ、毒味だなんて失礼ね」
「おっと、これ溶けちまわないうちに食べなきゃ」
甚平はグラニータに手を伸ばした。
「ま、ごまかして」
「お姉ちゃん、これもうまいよ」
ジュンは一口口に入れた。
「本当だ。大人の味ね」
「よかったね、成功して。これでホッとしているんじゃない」
「そうね・・」
2人は微笑みあった。


まだ午前の日差しの強くない頃、誰もいない海岸をひたすら走っている竜の姿があった。
そしてそれを彼の父親と弟の誠二が見ていたが、やがてこんなことを言い出した。
「竜兄(あん)ちゃん、どうしたんだろう。結構頑張ってるよ?」
「ん、竜もあれでなかなか頑固なやっちゃだからのう。やっぱり友達に言われたのが効いてるんだべ」


そしてとある日の夜。じっと夜空にかかる月を眺めていた健は、庭に停めてあるセスナ機に近づいた。
そして彼はセスナ機に飛び乗り、エンジンをかけた。
それは勢いよく飛び上がり、星のきらめく夜空に浮かぶように飛び始めた。
しばらく無言だった健は、空を見上げながらこう言った。
「どうだい?今日も綺麗な星空だ。・・お前が望んでいた空だぜ。見えるだろう?」
やがてそうやって飛び続けた健はレバーを引き、また今来たコースを戻るように旋回した。そして下を見下ろして顔をほころばせた。
そして降下し、元の位置に戻った。建物の先にはジュン、甚平、そして竜の3人がもう集まっており、テーブルを準備していた。
「やあ、もう集まったのか」
「健が戻ってくるのを見計らってきたのよ。きっと飛んでいるだろうって」
「もう腹減って仕方ないぞい」
「待ちなよ、竜。ねえ、兄貴、見てくれよ!これ、お姉ちゃんが作ったんだぜ!」
テーブルの中央にある白い皿の上にはこんがりと焼けていい匂いをさせているイカの香草焼きが並べられていた。
「へえ、ジュンが作ったのか」
「イカは竜が新鮮なものを持ってきてくれたのよ」
「そんでねえ、これはオイラが作ったんだ」
「すごいな」
「そんじゃあ皆揃ったから始めるぞい」
「うん」
「「いただきまーす」」
4人は立食パーティーよろしく各々食べ始めた。
ジュンはじっと息を飲んで健が食べるのを見つめた。彼はそれに気づいてこう言った。
「うまいじゃないか、ジュン」
「本当?健」
「ああ、きっと喜ぶぞ」
ジュンはいつもなら自分が褒められたわけじゃないことに怒るところだが、彼の思いを察して微笑んだ。
「本当?だといいんだけど」
「うんうん、うんめえわさ。ジュン、これならもう安心じゃい」
「大食らいの竜が褒めてるぜ、よかったね、お姉ちゃん」
ジュンは涙をぬぐった。
「私だけじゃないわ。きっと・・力を貸してくれたのよ」
「まあ・・お姉ちゃん一人じゃこんなにうまくできないもんね」
「ま!言ったわね」
ジュンは甚平の額を小突いた。
「イテッ、自分で言ったんじゃんか」
「おいおい、2人とも。相変わらずだと笑ってるぞ」
「なんだよ、兄貴。ジョーの言葉が聞こえるんなら言ってくれよ、笑ってないで降りてきて食ってみてよって」
健は目を伏せたが、笑って甚平を見た。
「甚平が寝静まったら来るってよ」
「ええ?」
竜とジュンは顔を見合わせた。
「健が来るんじゃろ」
「あら、それじゃ全部食べなきゃ」
2人は小声で言ったが、健に愛想笑いをした。
健はやれやれと頭を振った。

食事が終わると面々は芝生の上に腰掛け、夜空の星々を眺めた。竜は相変わらずというかやっぱりというかいびきをかいて大の字で寝ていたが、3人は大して気にせずにいた。
「綺麗ね・・・」
「ああ」
「そういえば、兄貴はジョーの兄貴に何しろって言われたの?」
「・・・特になかったなあ、宿題」
「えー、ずるいや〜」
「ふふ、ジョーと健はね、もう何も言わなくても通じる仲なのよ」
「へえ、お姉ちゃん、妬かないの?」
「別に」
「強がっちゃって!」
「うるさい!」
健はじっと輝く星たちを見つめた。
「・・・・」
あいつは・・・

”最後の最後まで迷惑をかけちまったが、おめえにはいろいろ感謝してるぜ・・・”

「・・・ジョー・・・」

”最後まで説教か?”


「俺は奴を見るとすぐに小言を言うと思って余計なこと言わなかったじゃないのかなあ」
「そうだよ!あのときだって怒ってさ。ばかやろうっとか言って。ほんと、兄貴って素直じゃないんだから」
健は甚平の頭を小突いた。
「こいつ、生意気言いやがって」
「へへへ」
すると背後で竜の声がした。
「う〜ん・・・もう食えねえ・・・」
「まあ」
「しょうがないなあ、竜は」
3人は笑ってまた夜空を見上げた。
「またこうして会おうぜ。あいつも来てくれるだろうからな」
「そうだね、また5人一緒にいようよ」
3人の頭上では星々が瞬いた。まるで返事をしているかのように・・・。




  
ー 完 ー




今回のお話は以前書いたフィクのアンサー編です。合わせてどうぞ → 『夢の中へ








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『血筋』
2017-05-06 Sat 10:46

木々の間を尋常ないスピードで駆け抜ける影があった。
そして足を止め、何かを投げつけた。
「まだまだね」
カテリーナはそう呟くと枝を軽々と登り、その投げたものを幹から抜いた。
そして辺りを見渡すと、はるか遠くの方に視線を固定させるとまた投げた。
「ママ〜!」
カテリーナは下を見下ろした。ジョージが駆けてくる。
「そこで何してるの?」
彼女はちょっと微笑んだが、ハッとした。先ほど投げたものが何とジョージめがけて飛んでいたからだ。
「ジョージ!」
カテリーナは青ざめ、木から飛び降りると駆け出した。
ジョージはぽかんとして立ち止まったが、目の前の自分に向かって飛んでくるものを見るとキッと鋭い目つきになり、手を差し出してそれをしっかり掴んだ。
カテリーナはジョージを抱きしめた。
「ジョージ・・」
ジョージはカテリーナが離れると、手にしたものを渡した。
「ママ、お花投げちゃだめだよ。可哀想でしょ?」
「あ、ああ、そうね・・そうよね」
カテリーナは金属製のそれを見つめた。それは「薔薇爆弾」という彼女たちデブルスターの
武器のひとつだ。むろん、扱いを間違えるとその場で暴発する。
「ねえ、ママ」
「え?」
「それ、僕も投げていい?」
カテリーナはかぶりを振った。
「だめよ、子供のおもちゃじゃないの」
「投げてみた〜い〜」
ジョージはカテリーナの服を掴んでせがんだ。
「ジョージ」
しかしジョージはすっと隙を見て彼女の手から奪い取り、どこかめがけて投げてしまった。
「あっ・・」
それは木のてっぺんまで届き、木の枝を折って下へ落ちた。
「うわあい、ママ、あんな上まで届いたよ!」
カテリーナはじっと枝が突き刺さった薔薇爆弾を見つめた。
「・・・・(なんて正確な技なの・・起爆装置外しておいてよかったわ)」
薔薇爆弾は蕾状態であった。それを花開かせると起爆装置が働き、衝撃を受けると爆発する仕組みである。
ジョージは新しいおもちゃが手に入ったかのように嬉しそうだ。それを手にしてまだ投げた。
カテリーナはその正確さに感心したが、不安げな表情で無邪気に自分を呼ぶ息子に力なく微笑んだ。


ジョージが寝静まった頃、1階の居間ではジュゼッペとカテリーナの2人がソファでテレビを見ていた。が、2人の目には画面は映っていない感じでぼんやりしていた。昼間の出来事をカテリーナから聞いてジュゼッペも黙っていたのだ。
「・・・あいつにはやっぱり俺たちの血がしっかり入っているということか」
「・・・・」
「上の方がジョージを狙ってきている。時間がないかもしれない」
カテリーナは俯いた。
ジュゼッペは黙って彼女を見つめたが、カテリーナはすくっと立ち上がって暖炉の上のある写真立てを手にした。そこには生まれたばかりのジョージを抱いて微笑む彼女と彼女を支えるジュゼッペが写っていた。
カテリーナはじっと見つめていたが、やがてこう言った。
「・・・いつかはこの子も事実を知ってしまうのかしら。そして私たちを軽蔑するのかしら」
「それともー」
彼女はジュゼッペを見た。
「同じように手を血で染めるようになるのか」
「・・・・」
「あいつは俺たちの血を受け継いでいるからな・・」

2人は幹部として働く身として組織内の色々な仕組みを知っていた。知っている限り他の幹部は自分の子をギャラクターの戦闘員として養成するところへ送り出している。しかもそれは彼らの意思ではなく全て上からの指令である。そして子らは何も知らず洗脳されて悪事と知らず言われた仕事を命をかけてこなすのだ。

ある日、ジュゼッペは拳銃を手にすると、庭で蝶を追って駆け回っているジョージの元へやってきた。
ジョージは彼に気付かないのか、相変わらず蝶を追いかけていたが、あ、と言って立ち止まった。
蝶が蜘蛛の巣にかかってしまったのだ。ジュゼッペは何も言わずだた見ていたが、ジョージは彼の方を向くと、その手を見た。
「パパ、それ貸して」
「・・えっ?」
しかし彼が何を言われているのか理解する前にジョージは拳銃を奪うように取り、蜘蛛の巣めがけて撃った。
それはちょうど上下に分かれるように糸を切り、蝶が絡んでいた部分が地面に落ちた。
「はい」
ジョージは拳銃をジュゼッペに返すと、糸が落ちた場所に行き、しゃがんで解き、蝶を
逃した。そして飛びだった蝶を見て満足そうに言った。
「蜘蛛さんはかわいそうだけど、蝶さんは助かったよ。ね、パパ」
「・・あ、ああ・・」彼はジョージを見下ろした。「そうだな・・ジョージ・・いつの間にこれを覚えたんだ」
「わかんない」
「・・・・」
ジュゼッペはじっと息子を見つめた。彼は糸を出して巣を作り直している蜘蛛を見ている。
多分ジョージは自分が撃っているのをどこかで見ていたのだろう。なるべく彼には気付かれないようにしてたつもりだったのだが。
カテリーナも訓練中を発見されてしまった。両親の血を受け継いでいるのならその腕にきっとギャラクターは目をつけるだろう。
(ジョージ。その腕は、決して悪事に使ってはいけない。悪事から人々を救うために使うんだ。それが・・お前が生きる道だ。・・俺たちの子として生まれた運命として)
ジュゼッペは拳銃を懐にしまった。教えるまでもなかったな。
彼はなんとも言えない思いで彼を連れて家へ戻った。


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『俺は猫である(後編)』
2017-02-22 Wed 18:02

「ああ、諸君。よく来たね」
「博士」
猫は博士を見るなり、鳴き出した。
「ニャー!(博士!)」
博士は、ん?という顔でジュンに抱かれている猫を見下ろした。
「どうしたんだね、この猫は」
「ついて来ちゃったんですよ・・」
困ったように甚平はそう言ったが、降ろされた猫は必死に博士の足元で戯れている。
「ニャー、ニャー」
「博士に随分甘えてるなあ」
博士は改めて4人を見た。
「それより、ジョーはどうした」
「それが・・」
「あいつ、とうとう返事よこさなかったな」
「寝てんのとちゃうか?」
「竜じゃあるまいし」
「ふんっ」
「ニャー、ニャー」
猫は博士の脚を前足で叩く仕草をし続けた。なので、博士は猫を見下ろした。
「ん?なんだね?」
そう言ってじっと博士は猫を見つめた。
「・・・・」
なんだか猫の瞳が何かを訴えているかのようにうるうるして自分を見つめている。
(博士〜・・何とかしてください・・)
博士は考え事をしているようだったが、やがて猫を抱き上げるとこう言った。
「わかった。私がしばらく預かろう」
「え〜、何でえ?」
驚く諸君を代表して甚平が言った。
「腹を空かしているのだろうし、それにー店には置けないだろう?」
「それなら俺が預かります。なあに、猫の1匹や2匹・・」
博士は健に微笑んで答えた。
「いや、健、大丈夫だ」
「第一、兄貴、キャットフード買えんのかい?」
「・・・心外だなあ・・」
「でも博士のところだったら安心だわ。(猫に)いい子にしてるのよ、猫ちゃん」
そう言ってジュンは猫の頭を撫でたが、猫は困った顔をしているようだった。誰も気づかなかったが。


博士からの連絡が済むと忍者隊はそれぞれ帰って行った。そして猫だけ残された。
博士はしばらく窓際で何かを考えていたが、振り向いてソファの上でじっとしている猫に視線を遣った。
「そこが落ち着くのかね?」
猫は博士を見た。
「かつて一緒に暮らしていた子供たちがよく遊んでいた場所だ」
そして彼はじっと自分を見上げている猫にこう言った。
「一緒においで。退屈だろう」
博士は猫を抱くと部屋を出た。
しばらくしてある扉を開け、地下へと続く階段を下り始めた。
「これを見るのは君だけだぞ」
扉を開けると博士は猫を下ろした。そこは大きな部屋、いや体育館か何かの会場のようなスペースで、金属を叩く音や溶接する時の火花のスパーク音があちこちで聞こえる。
「ここはバードミサイルの製造工場だ。こうして使用されるたびに造っている」
猫はじっとその様子を見つめた。しかも興味津々だ。
「これを造るのには様々な工程があり、オートメーション化された部分と人の手で行なわれている。もちろん武器として使われるのは仕方ないことだが、その裏には技術者たちの英知、そして努力がある」
博士は猫に視線を向けた。すると猫はうずくまり、そっと博士の顔を伺うように見上げた。
博士は笑った。
「咎めているのではない。確認したかったのだ」
博士は猫を抱き上げた。
「それじゃ行こう。もどに戻す薬もあるはずだ」
そしてドアを開けて出て行った。


博士は窓から外を眺めていた。そして彼の隣では研究員が立っていた。先ほどまで小さくなっていたのだが、結果オーライとなったのか普通にしていた。
「・・ところで、今度は何の研究をしていたのだね」
「実は・・動物の生態をより深く理解するためにどうしたらいいかと話し合ってた時、その動物の気持ちになってみるといいかもしれないとの意見がありまして・・まあ、冗談だったんですが、いっそ動物に変身してしまったら面白いんじゃないかと・・」
「それは思い通りの動物になれるのかね?」
「そうですね・・・。多分、その人にとって一番身近で大切に思っている生物になる、という感じでしょうかね」
博士は視線を戻した。
「・・・なるほど。わかったよ。それでか」
そして続けた。
「ああ、君。自分のものはちゃんと持って帰ってくれよ。そうでないと、私の部下が何かしでかしてしまうからね」
「はい、すみません」


森の木々の中にそのトレーラーハウスがあった。今日はとてもいい天気だ。ジョーはホースの水を周りの草花たちに撒いていた。
「ニャ〜」
そこへルナがやってきて彼の脚に体をこすりつけ、甘える仕草をした。
「なんだ、ルナ。もう腹減ったのか?」
しかしルナは甘えるばかりでそんなそぶりもない。
「なんだ、違うのか?おい、そうひっ掻くなって。分かったよ」
ジョーはルナを抱き上げた。そして甘える彼女を優しく撫で、ホースを片付けてトレーラーハウスの中へ入っていった。



       ー  終わりにゃ♪ ー


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『俺は猫である(前編)』
2017-02-21 Tue 18:04

甚平は様々な文字が書いてある本の背表紙を眺めていた。
どれも様々な言語で書いてあって、甚平にはさっぱりだった。
先ほどまでは他のメンバーもいたのだが、話が終わるとさっさと引き上げてしまったので、甚平一人研究室に残っていたわけだ。
入ってきた南部博士はそんな甚平を見て話しかけた。
「なんだ甚平、まだ帰ってなかったのか。店は大丈夫なのか」
甚平は振り向くことなく答えた。
「うん、平気だよ、お姉ちゃんきっと兄貴たちと一緒だよ。店は夜開けばいいんだし」
「そうか」
「それにさ、いっつも店の番か買い物ばっかりでさ。疲れちまうよ。たまにはのんびりしなくちゃ」
博士はやれやれという表情をした。
「ねえ、博士。ここすごいですね。本ばっか」
博士は笑った。
「そうだろう。研究に欠かせない書物ばかりだ。どの本も私の知識を広げてくれている」
「オイラなんか見ただけですぐに眠れそうだよ」
「ははは」
そこへドアが開いて研究員が入ってきた。
「博士、例のものを持ってきました」
「ああ・・そうか。で、今度は大丈夫だろうね」
「はあ、たぶん・・」
「たぶん、とはなんだ。」
「幾分まだ実験中なもので・・」」
そこへ他の研究員が通りかかり、開いているドアから顔をのぞかせた。
「おーい、ちょっと手伝ってくれ」
「あ、ああ」
研究員は持ってきたものを棚の空いている場所に置くと会釈をして部屋を出て行った。
「ねえ、博士ー。もうオイラ帰るよ」
「ん?そうか」
そして何かを思いついたように棚へやってきた。
「何かあったな。ジュンに何か持って言ってやりなさい」
そう言って箱らしきものを置いた。
「それなあに?」
「アンダーソン長官から頂いたものだ。コーヒーでね」
「何だ、お菓子じゃないのか」
「はは」
「ねえ、博士。その奥にあるお菓子も欲しいな。お姉ちゃんの機嫌を取るには甘いものじゃなくちゃ」
「甘い物?(手に取る)・・・これは見たことがないな。誰が置いて行ったんだ」
しかし博士はそれをも甚平に渡した。
「まあいい。それでは気をつけて帰るんだよ」
「はーい」
甚平はそれらを抱えてスナックJへ戻った。


スナックJはいつも昼間は閑散として静かだ。
いつもこの時間を利用して忍者隊のメンバーがやってくる。
甚平が皿洗いをしているとジョーが入ってきた。
「何だ、誰もいないのか」
「うん。お姉ちゃんは買い物だって。なーんか欲しいものがあるんだってさ。化粧品か何かじゃない?つけたって代わり映えしないのにさ」
「何言ってんだ。ジュンだって女の子だ、綺麗になりたいんだろ」
すると甚平は皿を置いてカウンターから出てきた。
「いけね、洗濯物取り込まなきゃ。それじゃジョーの兄貴、ここで番しててよ。そこにあるものでも食べてて」
「え?俺、甘い物はあまり得意じゃねえんだがなあ」
しかしもう甚平は二階へ上がってしまったので、ジョーは諦めたようにトレーの中にあるクッキーのようなものに手を伸ばした。
やがて干してあったとみられるタオルやおしぼりなどを両手に抱えて甚平が降りてきた。
「よいしょ・・っと」
そしてそれをカウンター脇に置いた甚平は水を飲んだ。
「やれやれ、これまた畳むのめんどーなんだよなあ。ねえ、ジョー、手伝ってーーーあれ?」
甚平は辺りを見渡した。
「ジョー?ジョー、もう帰ったのかなあ」
「ニャー」
「・・・?」
甚平は先ほどまでジョーが座っていた椅子の下に1匹の猫がこちらを見上げているのを見た。
「あれ?いつ来たの?ダメじゃないか、勝手に入ってきちゃ」
甚平はそう言って猫の首根っこを掴み、顔の高さまで上げた。
「うわー、怖い顔してんなー。ジョーの兄貴そっくり」
「ふにゃーっ!」
猫は怒ったように爪を立てて甚平の顔を掻いた。ので甚平は猫を睨んだ。
「いてえ、何すんだよ、こいつ!」
そこへドアが開いて健と竜が入ってきた。
「おい、甚平。猫なんか連れてきて大丈夫か?ジュンに怒られるぞ」
「だって〜」
「甚平はしょうがないのお」
「違うよ、猫は〜」
そしてジュンが遅れてやってきた。
「ごめん、ごめん、甚平。目移りしちゃって」
「もう、お姉ちゃん、化粧なんかしたって無駄なんだから買うのやめなよ、もったいないよ」
「まっ、何よ無駄って」
「まあまあやめろよ」
そう言って椅子に腰掛けた健だったが、ジュンの鋭い視線が刺さった。
「それだけ?ジョーだったらもっと気の利いた事言うに決まってるわ」
「ニャー」
「あら?」
ジュンは甚平に首を掴まれてぶら下がっている猫を見た。
「ダメよ、甚平。そんな事しちゃ。貸してごらんなさい」
ジュンはそう言って猫を甚平から奪うように取り上げると、自分の胸に抱き寄せた。
「ほうら、こうやって抱けば大人しくなるでしょ?」
ジュンはそう言って微笑んだ。猫は顔を赤らめ慌てて背けたが、甚平と目があって睨んだ。
「それよりさ、ジョーの兄貴見なかった?」
「ジョー?」
「うん、さっきまでいたのに急にいなくなっちゃたんだ」
「そうか。今日はレースが早く終わるって言ってたのにな」
「大方、寝てんのとちゃうか」
「それは竜だろ。違うよ、きっとまたすんごい美女でも見かけて行っちゃたんだよ。何しろ気まぐれだもんな、いい気なもんだ」
「ニャー、ニャー、ニャー!(おい、甚平、後で覚えておけよ!)」
「あらあ、どうしたの?わかった、お腹空いてんでしょ。あとでキャットフード買ってきてあげるから我慢なさいな」
「ニャー、ニャー、ニャー!(ジュン、俺は別に腹減ってねえ!)」
「はいはい、わかったから」
「ニャー・・(わかってねえだろ)」
ピー、ピー。
「はい、こちらG1号」
『忍者隊の諸君、私のところへ集まってくれ』
「わかりました」
「どうしたの?健」
「鉄獣かい?」
「わからん。それじゃ行こう」
「じゃ、あなたは留守番ね」
ジュンが降ろそうとすると、猫は駄々をこねた。しがみついて、まるで連れてってくれという感じだ。
「わかったわよ、博士に怒られたって知らないから」
健はブレスレットのスイッチを押した。
「ジョー、どこだか知らんが、博士からの招集だ。来いよ」
健はジョーから特に返事はなかったのが気にはなったが、そのまま3人(と1匹)を引き連れて三日月基地へと向かった。



(後編へ続く)


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『ミモザ』
2017-02-14 Tue 18:08

朝目覚めたジョージは布団から抜け出してベッドから降りた。
今朝はとてもいい天気で小鳥のさえずる声が聞こえる。
ジョージは服に着替えると階下へ降りた。台所からいい匂いが漂ってくる。カテリーナが食事を作っているのだ。
とはいえ、いつも朝はカプチーノにビスコッティと決まっているのだが、彼女は他に何か作っているらしい。今日のおやつかな、と彼は思った。
カテリーナはこうして家にいる時には得意の料理に時間をかけて2人の食いしん坊達に振る舞うのが何よりの楽しみなのだ。
と、そんなところへジュゼッペがそっと入ってきた。どうしてそんなに静かに入ってくるんだろうとジョージが見ていると、彼は彼女の背後にやってきて、ささやいた。驚いて振り向いたカテリーナは微笑み、キスを交わすと、ジュゼッペの後ろ手に持っていたバラの花束が差し出されるのを見た。
「まあ、素敵!」
カテリーナは彼に抱きつき、花束を受け取って香りを楽しみ、うっとりとした表情をした。
ああ、そうか、今日はヴァレンタインだ。パパってばかなり奮発したな。去年より多いぞ。
赤いバラの花言葉は数によって違う。数が多いほど、その人を深く愛しているという意味になる。ジュゼッペとカテリーナの2人は近所でも有名な”おしどり夫婦”だ。
途端にジョージは浮かない顔になった。みんなで食事をしていても返事が上の空だ。

食事が終わるとソファに腰掛けてぼうっとしているジョージのところへジュゼッペがやってきて隣に座った。
「坊主、どうした?元気ないな。友達と喧嘩でもしたか?」
ジョージは顔を上げて彼を見た。
「パパ・・僕、レナちゃんに何も買ってない」
「ああ・・そうだったか」
「どうしよう、今日ヴァレンタインなのに」
「よし、パパと出かけよう。街へ行けば何か見つかるかもれないぞ」
「うん!」
2人は洗濯物を干しているカテリーナに言って外へ出た。

今日は本当に日差しがあっていい天気だ。昼頃はかなり強くなるが、空気がカラッとしているので嫌な感じはない。
2人はいろいろなお店の立ち並ぶ石畳の通りを歩いた。
ジェラート屋さんにチョコレート、そして雑貨屋さん。お土産らしきものを売っているお店もある。特に甘い香りがする店は要注意だ。見るだけにしても絶対に欲しくなる。
でも・・ジョージにはどれもなんだかイマイチだった。
花屋が見えた。綺麗な花たちがたくさんある。
それを見ていたジュゼッペは何かひらめいたらしく、こう言った。
「そうだ。あそこへ行こう」
「え?」
ジュゼッペはジョージを連れてある町外れの小さな小高い丘にやってきた。
「何があるの、ねえ?パパ」
「見てごらん」
「わあ・・・」
ジョージは目を見開いた。ちょうど向かいの広場一面黄色に染まっている木々が立っている。
「”ミモザ”だよ」
「・・ミモザ・・?」
「好きな女性に贈る花だ。女性の日という言い方は聞いたことあるだろう?」
「うん」
「あれを贈れらた女性は幸せになれるという言い伝えがある。レナちゃんに贈るといい」
この国では3月4日に女性へミモザを贈る習慣がある。「女性の日」だ。まだ2月だが、ジョージには赤いバラよりこちらの方がいいだろう。
「それじゃあ僕、レナちゃんとママにあげよ!」
「そうか、ママにもか。喜ぶぞ。」
ジュゼッペは笑ってジョージの髪をくしゃくしゃにした。
「手強いライバルが現れたな」
「パパ、早く摘もうよ!」
ジョージはそう言うと駆け出し、ミモザの木々の下にやってきた。そして上を見上げた。
ジュゼッペは笑って彼を抱き上げ、そして彼にそれを摘ませた。
「わあ、いい匂いがするよ、パパ」
「そうだな」
ジュゼッペはジョージの手が届きそうな低い枝を選んで歩いた。


ジョージは息を飲んでしばらく目を閉じたが、よし、と決心したように目を開け、トントン、とドアを叩いた。
「はーい。どなた」
出てきたのは、女性だった。
「あら、ジョージ。待っててね」
そう言ってしばらくしてレナがやってきた。
「ジョージくん!」
「こんにちは、レナちゃん。・・あ、あのね」
「え?」
「これ!」
ジョージはレナにミモザの花束を差し出した。家にあった新聞に包んでリボンを巻いただけのシンプルなものだったが、レナには豪華に見えた。ので、嬉しそうに彼に抱きついた。
「わあ、ありがとう、ジョージくん。大切にするね」
「う、うん」
ジョージは照れ臭そうに笑って帽子を直すと、
「じゃ、僕行かなきゃ」
と言って駆け出した。自分の家まではすぐなのだが。
「じゃあね、ジョージくん」
レナは花の匂いを嗅いで中へ入っていった

家に戻ると、ジュゼッペがソファに座って新聞を読んでいた。
そしてジョージの顔を見ると、こう言った。
「お手伝いしてこい」
「うん」
「ああ、あれも・・忘れずにな」
ジョージは台所にいるカテリーナのところへやってきた。
「ママ、僕のすることある?」
「あら、ジョージ。もうあとはテーブルに並べるだけよ。そうね、クロスをかけるのお手伝いしてね」
「あのね、ママ・・」
「なあに?」
ジョージは後ろに隠していたミモザの花束を差し出した。
「はい」
「あら!」
カテリーナはその黄色い花を見ると嬉しそうな表情をした。
「きれいね。ありがとう、ジョージ」
入り口で成り行きを見ていたジュゼッペを見た彼女は、ジョージを抱き上げた。
「素敵なものを素敵な殿方にいただいて、私はなんて幸せ者なのでしょう」
カテリーナはそう言って、ジョージのおでこにキスをし、ジュゼッペと口付けた。
「さ、お昼にしましょう。イワシのスパゲティよ。アランチーニも熱々のうちにいただきましょう」
「うん!」
ジョージは降ろされると皿を並べる手伝いを買って出た。
そして食事の用意が整うと、一家3人の温かで優しいひとときが訪れた。


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