『ミモザ』
2017-02-14 Tue 18:08

朝目覚めたジョージは布団から抜け出してベッドから降りた。
今朝はとてもいい天気で小鳥のさえずる声が聞こえる。
ジョージは服に着替えると階下へ降りた。台所からいい匂いが漂ってくる。カテリーナが食事を作っているのだ。
とはいえ、いつも朝はカプチーノにビスコッティと決まっているのだが、彼女は他に何か作っているらしい。今日のおやつかな、と彼は思った。
カテリーナはこうして家にいる時には得意の料理に時間をかけて2人の食いしん坊達に振る舞うのが何よりの楽しみなのだ。
と、そんなところへジュゼッペがそっと入ってきた。どうしてそんなに静かに入ってくるんだろうとジョージが見ていると、彼は彼女の背後にやってきて、ささやいた。驚いて振り向いたカテリーナは微笑み、キスを交わすと、ジュゼッペの後ろ手に持っていたバラの花束が差し出されるのを見た。
「まあ、素敵!」
カテリーナは彼に抱きつき、花束を受け取って香りを楽しみ、うっとりとした表情をした。
ああ、そうか、今日はヴァレンタインだ。パパってばかなり奮発したな。去年より多いぞ。
赤いバラの花言葉は数によって違う。数が多いほど、その人を深く愛しているという意味になる。ジュゼッペとカテリーナの2人は近所でも有名な”おしどり夫婦”だ。
途端にジョージは浮かない顔になった。みんなで食事をしていても返事が上の空だ。

食事が終わるとソファに腰掛けてぼうっとしているジョージのところへジュゼッペがやってきて隣に座った。
「坊主、どうした?元気ないな。友達と喧嘩でもしたか?」
ジョージは顔を上げて彼を見た。
「パパ・・僕、レナちゃんに何も買ってない」
「ああ・・そうだったか」
「どうしよう、今日ヴァレンタインなのに」
「よし、パパと出かけよう。街へ行けば何か見つかるかもれないぞ」
「うん!」
2人は洗濯物を干しているカテリーナに言って外へ出た。

今日は本当に日差しがあっていい天気だ。昼頃はかなり強くなるが、空気がカラッとしているので嫌な感じはない。
2人はいろいろなお店の立ち並ぶ石畳の通りを歩いた。
ジェラート屋さんにチョコレート、そして雑貨屋さん。お土産らしきものを売っているお店もある。特に甘い香りがする店は要注意だ。見るだけにしても絶対に欲しくなる。
でも・・ジョージにはどれもなんだかイマイチだった。
花屋が見えた。綺麗な花たちがたくさんある。
それを見ていたジュゼッペは何かひらめいたらしく、こう言った。
「そうだ。あそこへ行こう」
「え?」
ジュゼッペはジョージを連れてある町外れの小さな小高い丘にやってきた。
「何があるの、ねえ?パパ」
「見てごらん」
「わあ・・・」
ジョージは目を見開いた。ちょうど向かいの広場一面黄色に染まっている木々が立っている。
「”ミモザ”だよ」
「・・ミモザ・・?」
「好きな女性に贈る花だ。女性の日という言い方は聞いたことあるだろう?」
「うん」
「あれを贈れらた女性は幸せになれるという言い伝えがある。レナちゃんに贈るといい」
この国では3月4日に女性へミモザを贈る習慣がある。「女性の日」だ。まだ2月だが、ジョージには赤いバラよりこちらの方がいいだろう。
「それじゃあ僕、レナちゃんとママにあげよ!」
「そうか、ママにもか。喜ぶぞ。」
ジュゼッペは笑ってジョージの髪をくしゃくしゃにした。
「手強いライバルが現れたな」
「パパ、早く摘もうよ!」
ジョージはそう言うと駆け出し、ミモザの木々の下にやってきた。そして上を見上げた。
ジュゼッペは笑って彼を抱き上げ、そして彼にそれを摘ませた。
「わあ、いい匂いがするよ、パパ」
「そうだな」
ジュゼッペはジョージの手が届きそうな低い枝を選んで歩いた。


ジョージは息を飲んでしばらく目を閉じたが、よし、と決心したように目を開け、トントン、とドアを叩いた。
「はーい。どなた」
出てきたのは、女性だった。
「あら、ジョージ。待っててね」
そう言ってしばらくしてレナがやってきた。
「ジョージくん!」
「こんにちは、レナちゃん。・・あ、あのね」
「え?」
「これ!」
ジョージはレナにミモザの花束を差し出した。家にあった新聞に包んでリボンを巻いただけのシンプルなものだったが、レナには豪華に見えた。ので、嬉しそうに彼に抱きついた。
「わあ、ありがとう、ジョージくん。大切にするね」
「う、うん」
ジョージは照れ臭そうに笑って帽子を直すと、
「じゃ、僕行かなきゃ」
と言って駆け出した。自分の家まではすぐなのだが。
「じゃあね、ジョージくん」
レナは花の匂いを嗅いで中へ入っていった

家に戻ると、ジュゼッペがソファに座って新聞を読んでいた。
そしてジョージの顔を見ると、こう言った。
「お手伝いしてこい」
「うん」
「ああ、あれも・・忘れずにな」
ジョージは台所にいるカテリーナのところへやってきた。
「ママ、僕のすることある?」
「あら、ジョージ。もうあとはテーブルに並べるだけよ。そうね、クロスをかけるのお手伝いしてね」
「あのね、ママ・・」
「なあに?」
ジョージは後ろに隠していたミモザの花束を差し出した。
「はい」
「あら!」
カテリーナはその黄色い花を見ると嬉しそうな表情をした。
「きれいね。ありがとう、ジョージ」
入り口で成り行きを見ていたジュゼッペを見た彼女は、ジョージを抱き上げた。
「素敵なものを素敵な殿方にいただいて、私はなんて幸せ者なのでしょう」
カテリーナはそう言って、ジョージのおでこにキスをし、ジュゼッペと口付けた。
「さ、お昼にしましょう。イワシのスパゲティよ。アランチーニも熱々のうちにいただきましょう」
「うん!」
ジョージは降ろされると皿を並べる手伝いを買って出た。
そして食事の用意が整うと、一家3人の温かで優しいひとときが訪れた。


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