『聖なる夜に』
2014-12-25 Thu 19:42



ジョージは目を覚ますと居間へ行って角に飾ってあるツリーのところへ来るのが日課になっていた。
そして彼はツリーの横に置いているものを眺めた。
クリスマス1ヶ月前から飾ってある「プレゼピオ」だ。これは、キリスト生誕までの物語を描いた、いわゆるジオラマで、風景や小物、人物に至までとても精巧に作られている。それぞれの家庭の手作りもあるが、この時期になると色々なパーツがお店で手に入れる事ができるのだ。
ジョージはそれを毎日のように眺めるのもまた日課になっていた。
両親はいつもは仕事柄留守していることが多かったのだが、クリスマスの時期は他の家庭のように長い休暇を取っていた。なのでいつも彼らがいる生活になり、ジョージはこの時期が一番好きだった。

「ジョージったら、まだ見てるの」
カテリーナは床に這いつくばるようにしてプレゼピオを熱心に見ている彼に声を掛けた。
「うん。ねえ、この人がママで、この人がパパだよね。」
「そうね。」
「そして25日に産まれるんだよね。早く産まれないかな、赤ちゃん。」
カテリーナ、そしてやってきたジュゼッペはジョージを見て、顔を見合わせ、
笑った。


そして12月25日、町中の教会に灯りが点った。礼拝が始まるのだ。
ジョージはカテリーナの手をしっかり握って歩いていた。今日は家族揃って教会へ出掛ける日だ。
しかしいつもの彼は教会へ行くのはこの世で一番退屈な事だと思っていた。
周りは大人ばかりで牧師さんのお話はとても退屈だ。礼拝中大人しくしていなければならないのは何よりも苦痛なのだ。
でも今日は違っていた。そう、ナターレの日なのだ(Natale=イタリアのクリスマス)。町は光に溢れ、行き交う人々の顔にも笑顔がほころぶ。


礼拝は粛々と進み、最近産まれたばかりの赤子を抱いた母親と父親が登場し、その子の洗礼式が行われた。
ジョージは身を乗り出してその様子を見つめた。牧師は水の入った黄金の杯を手にし、中の水を手に付けて幼児の額に付けた。
そんな風に興味深そうに見ている彼を見てカテリーナは言った。
「貴方も赤ちゃんの頃に受けたのよ。」
「ふ~ん・・」
カテリーナは再び洗礼式を見て、そして遥か遠くの光景を思い浮かべた。

ここは、イタリア本土に次いで島民たちのほとんどが熱心なキリスト教信者だ。
子供が産まれると、教会へ行って洗礼を受けさせるのが習わしだ。
だが、2人は悩んでいた。
自分たちはギャラクターの一員だ。
人々を恐怖の底へ陥れようと企む組織に属している身のため、教会に来ている事すら肩身の狭い思いをしているのに、自分の子に洗礼を受けさせようというのは虫が良すぎるだろうか。とつい尻込みしてここまで来てしまったのだ。
しかし、自分たちはどう汚れていようとこの子は関係ない。
せめてこの子だけは正しい道を歩んで欲しい。
両親はカテリーナの腕の中で眠る我が子を見つめた。

『父と子と聖霊によりバプテスマを授ける。アーメン』
「アーメン。」

カテリーナは牧師と会衆の声にはっとした。
人々に見守られ、赤子を抱いた両親が脇を通った。


聖歌隊による賛美歌と説教があり、礼拝が終わった。
会衆は次々と教会を後にした。
ジョージはキラキラ輝く通りを見ていた。そして一方ジュゼッペとカテリーナは彼の洗礼の時に言った牧師の言葉を思い出していた。それは、いつもの文句だけでなく、彼はジョージを見るなり何かを感じたのか、何かを呟き、手のひらをそっと幼児の上に当て、こう言った。
「この世を照らす光となれ。」
もちろんこの意味は今となっては解らない。これはもともと幼子イエスの事を言っているのだが、牧師は明らかにジョージに向かって言っていたのだ。
2人は不思議な気持ちになりながらもジョージを連れてそのまま歩き続けた。


そして聖なる夜はこうして静かに更けていった。





               ー  Fine ー



コメント

こんにちは。
神秘的なお話でした。
Kisaraさんにしか書けないだろうなぁ、と思いました。
ジョージは洗礼を受けていたんですね。
意味深な言葉とともに。
イタリアのクリスマスの様子が良く解って素敵な作品でした。




2014/12/26(金) 午前 10:07


>この子だけは正しい道を歩んで欲しい
そうですね。

淳は彼らに教会には行かせなかったけど、もし2人がギャラクターである事を悩んでいたらせめて我が子は・・と思うのは当然です。(といって、今さら書き変えられない~~)

>「この世を照らす光となれ。」
言葉通り、希望と未来の光でしたね。
でもその光の中にいってしまった・・・。

ここは牧師さんだから、アランのいた教会とはまた違う所なのかしら。

[ 朝倉 淳 ]


2014/12/26(金) 午後 3:09


こんばんは、minakoさん。

少しでもクリスマスらしい雰囲気が出ればと思いましたが、良かったです・・。

>洗礼

多分受けたんじゃないかとまあ、想像ですけどね。
イタリアでは産まれると近所の人たちもお祝いしてくれるとのことなので、隠せないですね(爆)←隠す必要はないか。

[ kisara ]


2014/12/26(金) 午後 7:32


こんばんは、淳さん。

やはり後ろめたい事してると行きにくいですよね・・。
行くと、懺悔しなさい、とか言われそうだし←私じゃないよ(爆)

>牧師さん

自分の行っているところがプロテスタントというのもあり、前テレビでイタリアの番組でやっていた幼児の洗礼式でも牧師さんだったような気がしたので、こうしました。
神父さんのカトリックはどんな礼拝をするのでしょうね。
一度見てみたい気もします。

[ kisara ]


2014/12/26(金) 午後 7:38


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