『新しい場所』
2014-05-03 Sat 11:26
その島は一国の先っちょについていた。
そこは南国らしく太陽のまばゆい光が全体に注いでいた。
海は限りなく青く、静かに波を寄せていた。
 
そんな島に、学会でやってきた南部博士は忙しい会議の合間を縫って
この風光明媚と云われる海岸へと足を延ばした。
「・・・綺麗なところだ。」
彼はそうつぶやくと、考え深げにじっと海を見つめた。
「こんなところが、あのギャラクターと呼ばれる闇組織に牛耳られているとは・・。」
博士がギャラクターの存在を知ったのは、この地に来てしばらくたってからだった。
島の市長らが口々に恐ろしげに話しているのを聞いて、博士はそのギャラクターに
ただならぬ恐怖とともに興味を抱いた。
(この島にいる間に何とか情報を収集しよう。今後のために役立つかもしれん。)
と、そんな時、博士の耳に銃声が聞こえてきた。
(・・・・事件か?)
博士は聞こえた方向へ急いだ。事件ならどこの国でも起こりうるし、あまり首を突っ
込むのは得策ではないのだが、どういうわけか直観でそこへ行かねばならない気
がしていた。
彼がそこに到着すると、野次馬が何人か遠巻きにいた。彼はテーブルの方を見やっ
たが、波の打ち際を見ると駆け寄った。小さな男の子が倒れていたのだ。
博士はしゃがんだ。
「・・・どうした?」
彼は首筋に手を置き、そしてその子を抱きあげた。
「まだ息がある。私のところにおいで。」
そして彼はその子をどうするのかと聞く市長らに、自分は医者だと告げ、子供を応急
手当を施して研究所へ連れ帰った。
 
子供はすぐさま手術室へ運ばれ、緊急手術を受けた。
やがてICUに移され、博士は眠っている子供のところへ面会に行った。
「どうですか、この子の容体は。」
「ああ、博士。大変でしたよ、体のあちこちに何かの破片が入ってましてね。それを
取るのにだいぶ時間がかかりました。」
「破片?」
「これです。」
博士は医師から渡された金属製の破片を手にした。
「これは爆弾か何かだろう。」
「・・・爆弾、ですか。」
「この子はこれにやられたのだ。だが・・・あの銃声はなんだったのだ。」
そういえば、この子から離れた場所に男女がいた。きっとこの子の両親だろう。
見たとこ、即死状態だった。たぶん彼らは銃で撃たれ、子供は爆弾を投げつけられた
のだ。
「可哀想に。何かの事件に巻き込まれたのだろうな。」
「博士、この子は素晴らしい生命力に恵まれていますから、きっとこの管も直取れる事
でしょう。そしたら、ゼリーでも食べさせてやります。」
「ああ、そうしてくれたまえ。あとジュースか何かもあげてくれ。」
「はい、わかりました。」
医師が立ち去ると、博士は改めて子供を見つめた。
手術後なので管が口から肺へ入っている。目覚めたらきっと変なものが体に入っている
のに気づいて大騒ぎするかもしれない。口もきけないので怖い思いをするだろう。
 
子供は翌日には普通の病棟へ戻された。薄暗く、機械の音しかしないICUから出られて
きっと喜んでいるに違いない。
博士は子供のいる病室へ向かった。もう目を覚ましていることだろう。
彼は静かに戸を開けた。子供は目を閉じていた。まだ寝ていたようだ。左腕に点滴をして
いる。しばらく食べるものも制限されているので栄養剤を入れているのだ。
博士は窓際へ行き、外を眺めた。
ユートランドの日差しはあの島と同様まぶしい。彼はあの美しい海の青さを思い出した。
そしてその美しさの裏にある恐ろしさも痛感した。
あの島はギャラクターに支配され、もともといるマフィアとの抗争も絶えないのだ。
博士はふと振り向いた。
毛布が少しだけ動き、子供がゆっくり目を開けたからだ。
博士は彼に向かって微笑んだ。
「おはよう、気分はどうかね?」
しかし子供はぽかんとして博士を見つめた。
「ああ、そうか。私の言葉が理解できないのか。そうだったな。」
博士はゆっくりと近づいた。
『おはよう。英語はわかるかい?』
『・・・すこし。』
『ここは私の病院だ。心配しなくていい。』
『・・・お医者さん・・?』
『・・まあ、そんなとこかな。気分はどうだね?』
『・・・僕をあんな目にあわせやがって。』
博士はふっと笑った。
『威勢がいいな、さすが男の子だ。その元気があればすぐに治ってしまうな。』
しかし男の子はあたりを見渡し、こう言った。
『・・・ママ・・・・パパは…?』
博士ははっとした。やはりあの2人はこの子の両親か。
彼は口をつぐんだ。駆けつけた時にはすでに彼らは死んでいた。
すると男の子は泣き出した。
『・・・ママ・・・・パパ・・・・』
男の子は両親の死を理解していたかもしれない。その時は気丈にも心を平穏に
保っていたが、後になって急にその死が思い出されて深い悲しみに包まれたのだ。
博士は泣きじゃくる男の子の傍に寄り、そっと髪に手をやった。
きっとこうやって両親にされていたのだろう、しばらくして男の子は泣きながらも少し
落ち着きを取り戻したようだ。
『坊やの名前は?』
『・・・ジョージ。』
『そうか。それではジョーって呼ぼう。君は今日からジョーだ。そして私の子だ。』
『・・・・おじさんの?』
博士は笑った。
『おじさん、か。だが、パパと呼ばなくていい。パパはパパ一人だからな。私のことは
「博士」でいいよ。』
博士はその子の澄み切った蒼い瞳を見つめた。この子を全力で守らねばならん。
両親を死に追いやった組織は子供がいなくなったと知れば血眼になって探すかも
しれない。そのためには偽装してかくまう必要がある。
博士は立ち上がり、再び窓際に歩いて外を眺めた。
上空では変わらず太陽が明るい光を地上に降り注いでいた。
それは博士にとって、何か希望を与えてくれるしるしにも見えた。
 

コメント

(あとがき)
この前の、「潮騒」の続きのような感じです。
こうやってジョーは博士に引き取られたのですね。異国に連れられて不安だったろうなあ。

ところで、ICUの描写は、実は私の体験をもとに描きました。もっとリアルに書けるんですけどね。今回はここまで。
口に入っている管はかなり深いもので、取るときはかなり苦しいので、手術後の一番難関で嫌な体験です(爆)

[ kisara ] 2014/5/3(土) 午前 11:31


kisaraさん、こんにちは。
この時の破片が後の病気の元、と言う説もありますよね…。
何だか最近そんな気がするんですよ。
それに発病時期もやっぱり98話じゃなくて、78話なのかなって。

ジョージがジョーになった瞬間を上手く書いて下さいました。
僅か8歳の子供には余りにも残酷な出来事でしたが、博士の存在が救ってくれたのですね。
ジョー最後まで博士には(反発する事はあっても)感謝していたと思います。

2014/5/3(土) 午前 11:57


いつ見てもジョージのぶららんあんよには萌え~♪ですわ♡

私も口から管を抜かれた瞬間にうげっとなって全身麻酔から覚めたことを思い出しました。

[ キョーコ ] 2014/5/3(土) 午後 0:16


こんにちは、minakoさん。

>98話じゃなくて、78話

兆候としてはその可能性はありますね。昔脳関係の病気とか調べたことがありますが、やはり脳に損傷があると、光に異常反応を起こすらしいです。吐き気とか頭痛とか・・。
ああ、ジョーの症状ばかりだなあなんて思いましたよ。

>博士には感謝

口に言わなくてもね。博士もきっと理解したかもですね。一緒にいた時間が多かったから。

[ kisara ] 2014/5/3(土) 午後 5:48


こんにちは、キョーコさん。

>ぶららんあんよ

ふふ、可愛いですよね♪おチビちゃんだからね。
私も抱っこしたいなあ。(←落とすのが目に見えてます(爆))

>管

私は意識ありました(爆)。
はい、息思いっきり吐いてーとか言われてもう必死でしたわ~。あれは何度やっても嫌いです。(当たり前か)
でもそれ以上に嫌だったのは、1週間後に、病室でお腹の管を抜いたときですかねー、あれは痛いし、息止めてなきゃいけないから。

ってなぜこんな話に?(←お前が言い出したんだって)(爆)

[ kisara ] 2014/5/3(土) 午後 5:53


博士が彼ら5人にかかわったのは、最初に健、そしてジョーの順。その次がリュウかな?
彼ら若者を知ったから科学忍者隊の設立を考えたのかと想像すると、運命としか言えない・・・と今さらながら想いました。 ← 遅っ!

>全身麻酔
私は眼が覚めた時はもう挿管チューブは抜かれていました。
人によって・・いや、状況によって違うのですね。

[ 朝倉 淳 ]


2014/5/5(月) 午後 2:38


こんにちは、淳さん。

>最初に健

そういえば、レビューしてて、博士の回想にまだちっちゃかった健を預かったという話が出た時に、そうだ、健ちゃんはジョーより前に一度博士のもとに来たんだと思った事があります。
で、ジョーが来て、その後母親が亡くなって改めて健がやってきたという事なんですね。
で、こうして5人が集まって・・。
私も今更ながら思った次第です。
いつ観ても新しい発見がありますねー。

>もう挿管チューブは抜かれて

いいなー。どうして私はいつも目覚めている時なんだろう?(爆)
でも手術が終わってICUに来るとすぐに叩き起こされるんですよ、で管の存在にううっとなるわけです・・。

[ kisara ]


2014/5/5(月) 午後 5:51


私も全身麻酔の経験は2回あるのですが、挿管チューブの記憶がないのは何故なのでしょう?
不思議です。




2014/5/5(月) 午後 10:29


>minakoさん。

記憶がないのはけっこうな事ですよー。私は起こされてからの場合ばかりだったので、そういうもんだと思ってましたが。


いやあ、それにしても、こんな話になっちゃってすまんです・・。
私のせいだわー。皆さん、ごめんなさい。

[ kisara ]


2014/5/6(火) 午後 2:07

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