『Pasqua(復活祭)』
2014-04-12 Sat 11:29
石畳の坂を数人の子供たちが駆けていく。彼らは笑いながら追いかけっこをしている
ようだったが、ある子が振り向いてこう言った。
「じゃあ僕は帰るよ。お手伝いしなきゃ。」
「うん、僕も。」
「じゃあね、ジョージ、バイバイ!」
「バイバイ、またね、。」
それぞれの子供たちは散り散りに走り出し、ジョージも家へと急いだ。
そんなとき、大人たちの声が聞こえて通りに出た彼はあ、という顔をして足を止めた。
楽しそうに笑いあっている大人たちの向こうに立っているものを見たのだ。
「わあ、すげえや。」
それは巨大な人形のようだ。周りにも何やら飾られてそれはテレビでよく見るパレード
に出てくるようなものだった。
家に戻ったジョージは早速母親に今見てきたことを話した。すると彼女は微笑んで言った。
「もうすぐパスクア(復活祭)でしょ?その時の行進に使われる、”ミステリ”と言う彫刻の人形
を用意しているのよ。」
「ふ~ん・・・」
するとジョージはとたんに目を輝かせた。
「じゃあ、ママ。また大きなドルチェ作ってね。」
「ええ、お祭りにはかかせないものですからね。またあなたの大好きな果物の乗ったものを
作るわよ。」
 
イタリア、そしてこの島の復活祭は「Pasqua(パスクア)」と呼ばれ(アメリカではイースター)、
”カッサータ”と呼ばれる島独特のド派手なドルチェ、そしてパスタのオーブン焼き(パスタ・
アル・フィルノ)がいつもテーブルの上を飾るのが定番である。パスタにソースを絡めたもの
の上にチーズ、卵、ハムなどを乗せ、オーブンで焼く料理である。
また、キリスト教では羊は穏やかな性格から善人の意味があり、羊肉を使った料理が所
狭しと並ぶ。
そして定番のお菓子はドルチェのほかに、「コロンバ」と呼ばれる鳩の形をかたどった発酵
菓子が登場する。鳩は平和の象徴であり、平和への願いを込めてできたお菓子である。
 
「そうだわ、今年の試作品を作ってみるから、あなたも手伝ってみる?」
「うん!」
カテリーナは大きなテーブルに紙袋を乗せた。彼女は材料とおばしき食材を次々と取り出して
その上に並べた。
砂糖漬けのドライフルーツが何種類か、 生クリーム、マトン、そして卵。
卵はたくさんあった。ケーキの材料とは別に買ったと彼女は言った。
「復活祭エッグよ。そこに絵を描くの。昨年も書いたけど、覚えている?ジョージ。」
しかしジョージは首をかしげて考え込んでしまった。なので、カテリーナはくすっと笑った。
「そうね、また3歳くらいだったわね。その前までは触らせてもらえなかったものね。」
「ママ、僕も描いていい?」
「いいわよ。」彼女は奥へと移動しながら言った。「でもまだよ。後でね。」
カテリーナは行ってしまったが、ジョージはじっと籠の中に入っていた卵を見つめた。テーブル
は彼の目のあたりにあって、小さい彼は少し背伸びする必要があった。
そして彼はそっと手を伸ばしてその中の卵をつかもうと試みた。でもちょっとの差で届かない。
あとちょっとなんだけどな。ママはいないし。
カテリーナは台所で野菜を軽くゆすいでいた。そして色とりどりのドライフルーツの缶を置いて
引き出しを開けようとした。その時である。
「・・あーん・・・」
突如、ジョージの鳴き声が聞こえた。
カテリーナは急いで台所から出て泣いている小さな息子を見た。彼の足もとには卵が落ちていて
割れて中身が流れ出てしまっている。
「あらあら・・」
「・・・ママ・・・卵割っちゃった・・・・」
「大丈夫よ。まだたくさんあるから。」
カテリーナはそういって彼の頭に手をやり、床を手際よく吹いて綺麗にした。
それにしても、ただの卵が割れたくらいでなぜこんなに泣くのかしらとカテリーナが不思議がって
いると、彼は泣きじゃくりながらこう言った。
「・・・・ママ・・・・・どうしよう・・・・死んじゃった・・・・」
「えっ?」
「・・・・鳥さんの赤ちゃんになるんでしょ?・・・僕・・・殺しちゃった・・・」
ああ、それでこの子は泣いているのか。カテリーナは微笑んだ。そしてしゃがんでぎゅっとジョージ
を抱きしめた。
「ジョージ、大丈夫よ。これはね、雛にならない卵なの。だから、割れてもいいのよ。大丈夫。」
「・・・・ホント・・?」
「ええ。」
ジョージは安心したのか微笑んで彼女に顔をつけた。
カテリーナは彼の髪を撫でた。
「・・あなたは優しい子ね、ジョージ。」
そしてカテリーナはそのままジョージを抱き上げ、おでこに自分の額をつけた。
「神様がいつまでもジョージがいい子であるようお守りくださいますように。アーメン。」
「アーメン。」
カテリーナは笑って彼を抱いたまま台所へ向かった。
そして昼下がりののどかな日差しが2人を優しく包んだ。
まもなく復活祭。町中は荘厳さと華やかさが同居した不思議な物語を描くのである。
 
 

コメント

今年のイースターは20日(日)です。
普段、「イースター」といっていますが、イタリアでは「パスクア」と言います。
ドルチェというお菓子ですが、正式には「ドルチェシチリアーナ」といい、シチリアの名物とのことです。ただ、本編ではBC島という名なので、シチリアは使えないということでただのドルチェにしました。

また、卵のくだりは私の実体験をもとにしました。
実は小学低学年の頃は、卵というものはみんな、温めればヒヨコが生まれる、と信じていました。もちろん、無精卵と有精卵というのがあるなんて知りませんから。
そんなわけで、今回のジョージくんはまだ4歳くらいという設定なので、きっとそう考えるかな、と思って書きました。ちょっと幼すぎましたかね(笑)

[ kisara ] 2014/4/12(土) 午前 11:36


kisaraさん、こんにちは。
いい話を読ませて戴きました。
ジョージ4歳。
可愛い盛りですね~。
幼稚園児ぐらい?
私って、彼の小さい頃を書いた事がないなぁ…、と改めて思いました。

>卵のくだり
凄く子供らしくて可愛らしかったです!
彼にもこんな時代があったんですね。
私は18歳の彼ばかり妄想しているから、とても新鮮に読めました!

因みに私の4歳の頃は、卵は割って食べるものだと思っていたと思います。(爆)
小学校に上がって、校門の前にひよこ売りが来ていて、あの卵からこれが生まれるの?と不思議に思った記憶があります。
親には買って貰えませんでしたが。
(そりゃそうだ)

2014/4/12(土) 午後 1:15


こんばんは、minakoさん。
いつもありがとうございます。

>幼児園児ぐらい?

うちは小学校だけど、時々近くの園児たちが遊びに来るんですよ。もう元気いっぱいできっとこんな感じかなあって思ってますが。
どうかな?


>こんな時代が

そうですよ、いつも強面で生意気盛り(笑)の彼ですけど、チビのころはこーんなだったハズです(←ファン)

>ひよこ売り

そういえば、お祭りにひよこを売っている屋台とかあって、狭いケースの中にぎゅうぎゅう詰めになっているのを見て、子供心にひどいなーと思ったことがありますわ・・。

[ kisara ] 2014/4/12(土) 午後 7:26


(おわびと訂正)

自分のあとがき部分で、「ドルチェ シチリアーノ」と書きましたが、「カッサータ シチリアーノ」の間違いです。ごめんなさい。
ホームページにはちゃんと直して移します。(ダメじゃん(爆))

[ kisara ] 2014/4/12(土) 午後 7:36


昔読んだ、「やかまし村のこどもたち」(・・だったと思いますが)にイースターの話があって、こんな楽しいお祭りがあるんだなと羨ましく思いました。
日本ではクリスマスのように一般化(?)されていませんしね。

4歳のジョージ・・・うーん、あの顔(8歳)の半分の年令か。想像がつかない。(^_^;)

幼さなりの可愛さがあると思うけど、あの眼付の鋭さは変わらない気が。 ← ファンです

[ 朝倉 淳 ]


2014/4/18(金) 午後 3:17


こんばんは、淳さん。ありがとうございます。

>「やかまし村のこどもたち」

私は読んだことすら覚えてないですが、スウェーデンのお話なんですね。映画にもなったとか・・。子供たちの日常をひたすら描いた、実に平和的な作品だとか。
確かにイースターって復活のお祭りなので、けっこう楽しそうです。
今回の話にあたって、イタリアのお祭りを調べていた時も、いいなあ、とか思ってました。
日本はクリスマスみたいに変なお祭りに変えそうで怖いなあ・・(爆)

>4歳

確かにあの顔では考えにくいですなあ(←同じくファン(爆))
まあ、ご幼少の頃から精悍なたくましいお子さんだったという事で・・・。

でもなんか、すごく可愛くしちゃう、私の悪い癖です。

[ kisara ]


2014/4/18(金) 午後 8:05


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