『不思議な来客』
2014-03-15 Sat 10:59
スナックジュンではいつもと変わらない感じで時が過ぎていた。
まばらな客人も平和になった世を味わっているかのように楽しそうに談笑している。
そんな客を眺めていたジュンはふうとため息をついた。そしてその隣では同じく甚平
もぼうっとした顔して皿やコップを拭いていた。
そんな時にチリン・・と鈴の音がしてドアが開いた。一人の若い女性が入って来た。
彼女は辺りを見渡し、しばらく立っていたが、やがてカウンターの隅に腰掛けた。
その人は栗色の髪を肩まで伸ばし、それはふんわりとウェーブが掛かっていた。
色白で目が大きく、見たとこ、16、7歳くらいに見える。
「甚平、お客様よ。」
「・・分かってるよ。」
甚平は水差しからコップに水を注ぐと、カウンターから出て女性のところへ向かった。
「いらっしゃいませ。何にしましょうか。」
「あの・・・・彼はいますか?」
「・・え?」
「・・彼?」
ジュンは顔を上げた。
「えっと・・・ジョージ、いえ、ジョーって言ったっけ。背の高い男の人。」
甚平とジュンは思わず顔を見合わせた。
「・・お姉ちゃん・・・。」
「彼、いつもここにいるって聞いて・・。」
「・・あ、あの・・その・・・彼は遠くへ行ってしまって・・・・もうここには・・・。」
女性は軽く瞬きをして、そして何かを悟ったようにうつむいた。
「そうなの・・・もう。・・やっぱりあの時ー」
「・・えっ?」
「私、感じたの。・・そして彼の声が聞こえて・・。”もう俺は行くから・・”って。」
2人はじっと女性を見つめた。
そしてジュンは彼女に聞いた。
「あなた・・どうしてジョーの事を?」
「彼は・・いつも私と一緒にいてくれて・・」
「え?ジョーの兄貴と付き合ってたの?何も言ってくれなかったよ。お姉ちゃん、知ってた?」
しかしジュンは何も言わず、女性を見つめていた。
「・・お姉ちゃんってば!」
「甚平、何か軽いもの持って来てよ。」そして女性の隣に腰掛けた。「ねえ、少し聞かせてよ。
ジョーったら何も言わないから、付き合っている女性がいたなんて知らなかったわ。」
「私こそ、知りたいわ。教えて、彼の事。だって、いつもどこかへ行ってしまうんですもの。
一緒にいられたの、数えるくらい。」
「そんな事ないと思うわ。私たちの方があまりないわよ。・・仕事で一緒になるくらいね。」
すると、女性が思い出したように言った。
「でも、彼の車に乗って、そのままドライブに連れて行ってくれた事が何度かあったわ。
とても楽しかった。
・・そうそう、一度だけ・・すごく変な体験をしたの。・・何と言うか・・車の中にいるんだ
けど、更に大きな飛行機みたいのに乗って・・彼、どこかへ行っちゃったけど・・・。
一人でいる時は凄く寂しかった。もの凄く揺れてたし。」
女性は一旦切ってまた続けた。
「・・でもあなたたちはいつも彼と一緒にいたのよね。」
「あら・・あなただってジョーの側にいられたわ。ずうっとね。私たちよりも。」
甚平は怪訝な顔をしてジュンの顔を見つめた。お姉ちゃんってば何で知っているような事
言うんだろう。
ジュンはうつむいている女性を見つめた。
「何か飲む?・・ああ、そうそう、ホットミルクがいいわね。好きでしょ?」
女性は顔を上げた。
「・・えっ?」
ジュンはふふっと目配せをした。
「待っててよ。」
甚平はやってきたジュンを見上げた。
「お姉ちゃん、どうしてあの人の好み、分かったの?」
「女の勘よ。」
「・・ちぇっ」

女性は出されたホットミルクを美味しそうに飲み干すと、立ち上がって、お金をジュンに
手渡した。
「ありがとう、楽しかったわ。」
「こちらこそ。」
「私も行かなくちゃ。ごちそうさま。」
女性は会釈してドアを開けた。ジュンは思わず彼女の後を付けた。が、もう彼女の姿はなかった。
「・・・・。」
が、ジュンの耳元でまた鈴の音が聞こえた。そしてそれを聞いた彼女は確信した。
それはいつもジョーの側で彼に甘えていた仔猫のルナの首もとにあった鈴の音だったのだ。
ジュンは澄み切った青空を見上げた。そしてこう言った。
「ねえ。彼に会ったら伝えてくれる?
私たち・・貴方に会えて本当に良かった。一緒に同じ時間を過ごし、共に戦えて、私たちは
本当に幸せだった。」
ジュンはうつむいたが、またキッと顔を上げた。
「ジョー、もう貴方は寂しくないわね。ご両親と・・そして彼女がいるから。
幸せになってね。・・・・今度こそ。」
空を見つめていた彼女はあの女性がジョーの元へ旅立っていくのが見える気がした。
きっと彼はびっくりするだろうな。
彼女は微笑んでいたが、流れるものがあった。
ジュンは目頭をそっと押さえて中へ戻った。



コメント

kisaraさん、こんにちは。
途中でルナちゃんじゃないかな~?と思いました。
やっぱり人間の姿でジョーを探しに来たのですね。
以前亡くなったルナちゃんが成長した姿で現われたのかな?
でも、ルナちゃんはジョーを追って行ってしまったのですね。
その方が『彼女』にとっては幸せかもしれない。

最後のジュンの涙に、私も同化してました。




2014/3/15(土) 午後 0:14


こんばんは、minakoさん。

>途中で

分かっちゃいましたね~。甚平は最後まで「?」でしたが(爆)。

突然逝ってしまった感じだったのですが、やはり彼女には挨拶しに立ち寄ったのではないかなーと思いまして・・。
あんなに可愛がっていた彼女ですからね。

>その方が『彼女』にとっては幸せ

好きな人の側にはずっといたいもんね。こんな風に愛してみたいものデス。

[ kisara ]


2014/3/15(土) 午後 8:47


kisaraさん、こんばんは。

年のせいか涙がもろくなってしまった私、こんなふうに愛されてジョーは幸せですね。

[ nekoshippo ]


2014/3/16(日) 午後 8:08


こんばんは、ネコさん。
一日経ってしまった(爆)、ごめんなさい(汗っ)。

>年のせいか

私も、他の方の作品を読んですぐにウルウルしちゃう時があって・・・。ホント、年は取りたくないなあ~。でも感動するのはいい事か。
ジョーは我が侭だったり勝手な事ばかりの感じだけど、カワイイとこもあって愛すべきキャラですよね。自分に正直なんですよね。

[ kisara ]


2014/3/17(月) 午後 7:30


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