『父として』
2014-03-01 Sat 11:24
およそ人の寄り付かない山奥のその下にその基地はあった。
そこにはたくさんの人たちが働いていた。が、そこの仕事は普通の地上のそれとは
大きく違っていた。
彼らは様々な器具を使い、何かを作り、世界から集めたデータを調べてそれを元に
何かの作戦を立てていた。
それを地球や人類の平和に役立てようとしているのなら特に問題はない。
しかし彼らはそれらで世界征服を企てているのだ。そしてそれは着々と、人類の
知らないところで進められていた。


そんな部下の仕事ぶりを監視する一人の男が歩いていた。そして能率が上がらない
者を見ると叱咤するという一面もあったが、それでも決して手を上げたり、罵倒す
るなどもしなかったので、部下からの信頼は厚かった。
「あー、しんどいなあ。いつまでこれをやってなくちゃいけないんだ。」
「まあそうぼやくな。これが終われば少しの間休める。」
「あんまり愚痴っていると見つかるぞ」
「酷いとこれだしな」
一人がそう言って首を斬る仕草をすると、そこにいた者たちは身震いした。
「おお、こわ。上まで話がいったらお終いだ。」
「どうせ見つかるのなら、アサクラさんがいいな。」
「そうだな、あの人は他の幹部たちよりこちらの気持ちを汲み取ってくれる。」
「しかし・・ここではあの人のような者はやっていけないだろうなあ。へたしたら
上の連中が目をつけるだろ。」
「何もなければいいがなあ。アサクラさんには何となくここにいて欲しくないもの
だ。」
すると彼らの上で怒鳴り声が聞こえた。
「こらあっ、お前ら!口を開く暇があったら手を動かせ!鞭で打たれたいかっ」
「すんません・・。」
一同は肩をすくめて小ぶりの男を見上げた。男はぶつぶつ言いながら立ち去った。
「・・・ったく、あいつは怒鳴ってばかりで嫌いだぜ。」
「ああ、イヤなヤツだ。」


廊下を歩いていたジュゼッペ・アサクラはどこからか子供の泣き声が聞こえるの
に気付いて足を止めた。そして聞こえるドアに近づいて開けた。
すると2、3人の隊員が並んで座っている子供達を一人ずつ連れて来て自分の側
に座らせた。手に注射らしきものを持っている。
ジュゼッペは一人に近づいた。
「それは何だ。」
「あ、アサクラさん。これは・・薬です。」
「・・・薬?・・・で、この子達は?」
「仲間の子供ですよ。」別の隊員が泣く子供を押さえながら答えた。「この子達
をギャラクターの立派な隊員になるため教育するために洗脳させる薬を打ってい
るんです。」
「・・・・・。」
そして黙って泣く子供の腕に注射を打とうとした最初の隊員に言った。
「やめるんだ。」
「ダメです。これは絶対のご命令です。」
「・・ご命令?・・・・カッツェか。で、お前の子は?」
男はうつむいた。
「・・・もう他の部屋でー」
「アサクラさん、ここは見ないふりして立ち去った方がいいです。幹部の方は、
本来知らない事ですから・・。」
そして彼はジュゼッペを見た。
「・・・アサクラさんには坊やがいるでしょ。・・・忘れた方がいいですよ。」
「・・・・・。」
そして続けようとしたが、ジュゼッペが彼の腕を押さえた。
「やめろ。」
そしてまだ打たれていない子供達に向かって叫んだ。
「逃げろ、黙って遠くまで走るんだ。」
子供たちはいっせいに開いているドアから出て行った。隊員たちは慌てた。
「ダメですよ、そんな事したらー」
「責任は俺が持つ。大丈夫だ、お前達の事は守るから。」
「・・・・・。」
隊員達は顔を見合わせた。


「・・・何?ジュゼッペ・アサクラが?」
「はっ」
「う~む・・・一体何のつもりだ。して、その隊員どもはどうした。処分したか。」
「いえ、それが・・どこにも姿がありません。恐らく、ヤツが逃がしたものかと。」
「如何致しましょう、カッツェ様。」
「消せ。ジュゼッペ・アサクラを消すのだ。そしてその家族もな。反旗を翻したら
どうなるか、目に物を言わせてやる!」



ジュゼッペは自分の膝の上にジョージを乗せて本を読んでいた。
台所ではカテリーナが料理を作っているらしく、とてもいい匂いが漂ってくる。
なのでジョージはこんな事を言った。
「お腹空いたね、パパ。」
「そうだな。ママの作る料理は特別に美味いからな。」
ジュゼッペは本の挿絵を見ているジョージを見下ろした。そして彼を見ているうち
に、あの恐ろしい光景を思い出した。あの時いた子供達はちょうど彼くらいの幼い
感じだった。
「・・・ジョージ。」
「なあに?」
「パパの事、好きか?」
「うん!好き。」
「どのくらい?」
ジョージは首をかしげた。
「う~んとね・・えっと・・・」
そしてしばらく考えた彼はにこっと笑ってジュゼッペに抱きついた。
「このくらい!」
ジュゼッペは笑ってジョージの髪をクシャクシャにし、そしてぎゅうと抱きしめた。
あの恐ろしい光景が脳裏に浮かび、あまりの衝撃に身を震わせた。
(・・・この子を守らなければ・・。絶対にギャラクターに入れてはいけない。)
ギャラクターはきっとあのようにして次々と代々人間たちを組織に入れて来たのだ。
しかも、まだ幼いうちに薬を使うなんて・・・・。
ジュゼッペは今更ながら恐ろしくなった。自分は今まで何の疑いもなく来てきた。
そしてここは裏ではこのような非人道的な事がずっと行われて来たのだ。

この子のためにもあの場から離れるべきだ。
彼は決心した。そして自分を呼んだ息子を見下ろして微笑んだ。


ー完ー

コメント

kisaraさん、こんにちは。
ジュゼッペさんがどんな仕事をしていたのか、どうして脱走を考えたのかの答えを見事に書かれていて凄いな~、と素直に感嘆致しました!
ジョーのパパは決して悪い人じゃなかった。
どうしてギャラクターの組織に組み入れられたのかは解らないけれど、これならとても納得が行きます。
私も脱走したのはジョージの為だと思っています。

読み応えのあるお話を有難うございました。
小学生をいつもご覧になっているからでしょうか。
この位の年齢のジョージを上手く描写されていると思いました。




2014/3/1(土) 午後 0:42


こんばんは、minakoさん。ありがとうございます。

ジュゼッペさんの事って謎ですよね。それだけ、色々と考えるのも楽しい訳ですが・・・。
きっと大ボスって言ってもそんなに悪い人じゃないと思うんですよね。部下にはけっこう慕われていたんじゃないかって。意地悪そうには思えないもん。

>脱走したのはジョージの為

彼(とカテリーナさん)が抜ける決意をしたのはやっぱり子供(ジョー)の未来を案じて、というのが何だかしっくりきます。
やっぱり親というのは常に子の幸せを考えるものですから。
(私自身は、子供もいないし、未だに親に甘えているヤツですが(爆))


>小学生

まあ観察にはもってこい、という事ですかね(←怪しい人にならないよーにね(爆))
子供らしいですか?ちょっと他のみなさんのジョージくんに比べたら幼いですね、うちの彼は・・。

[ kisara ]


2014/3/1(土) 午後 8:21

スポンサーサイト
別窓 | フィクション | コメント:0 | トラックバック:0 | ∧top | under∨
<<HPのオリジナルフィク『黄金の翼』エピソード13をアップしました。 | El Condor Pasa | #50『白骨恐竜トラコドン』>>
この記事のコメント
∧top | under∨
コメントの投稿

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック
∧top | under∨
| El Condor Pasa |