『史上最悪の作戦』
2015-10-04 Sun 12:41
その日のスナックJのカウンターはいつもと違うピリピリとした空気が漂っていた。
そこに並ぶように腰掛けている健、ジョー、甚平、そして竜の4人の表情は堅く、誰もが声を発しない異常な雰囲気だった。中で作業しているジュンは気に留めないふりをしていたが、やがてこう言った。
「ちょっとー、何黙ってんのよ、まるでお通夜じゃないの。」
「ダメ、集中して!」
「・・・分かったわよ・・」
ジュンはちょっとふくれた顔をしたが、やがて嬉しそうに言った。
「できたわ!」
4人は相変わらず険しい表情だ。
彼女はお皿にめいめい盛りつけると、彼らの前にそれぞれ置いた。
「さあ、召し上がれ!」
4人は一斉に”それ”を覗き込むように見つめ、においを嗅いだり、触ってみたりした。
「・・・これ・・大丈夫かね?」
甚平が小声で隣の竜にささやいた。
「においはいい感じだわ」
「食うか」
そう言って健が口に運んだのを見て、ジョーもとりあえずナイフを入れた。
ジュンが作ったのは、どうやら”豚肉の生姜焼き”らしい。確かに竜の言うとおり、生姜のいい匂いがする。
しかし・・
「うわあ、お姉ちゃん、これまだ生だよ」
「味がぜんぜんしないわ」
「ゴムみたいだな」
ジュンはええ?という顔をして見渡した。
「あら、大変!お醤油を忘れてたわ!」
「ええー?」
でも竜は一口で食べてしまったようだ。甚平は呆れてこんな事を言った。
「竜は食べられればいいの?こんなの腹壊すよ」
「もうっ、何よ、甚平。あんたがまともなものを作らないとお嫁に行けないーって
言うから頑張ったんじゃないの。」
するとジョー。
「まあまあ、ジュンにしてはよくやった方じゃねえか」
「・・何よ、にしては、って」
「ただ味付けと時間がなかっただけだろ。それさえクリアできりゃ、きっと旨く出来ると思うぜ」
「そうかなあ」
「ま、これから期待するとしようぜ」
こうして彼らの試食の時間は終わった。そしてめいめい帰って行ったが、ジュンは何やら考えていた。
きっとさんざん言われてショックで口が聞けないのか?と甚平が思っていたが、それにしてはジュンの表情は何だか嬉しそうだ。
「なあ、お姉ちゃー」
「私、頑張るわ!」
「え?何を頑張るの?」
「お料理よ、何だか希望が出て来たの」
「そう?あんなに言われても?」
「あら、ジョーはちゃんと言ってくれたわ。」
甚平はお姉ちゃんって単純だなー、そんなのよくあるお世辞に決まってるじゃんかと思ったが、ジュンはブレスレットを押した。
「ねえ?ジョー。来てくれない?・・いいじゃないの、どうせ夜更かししてんでしょ。私、もっと上手くなりたいから教えてよ。待ってるわよ」
「お姉ちゃん、ブレスレットそんな事で使っていいのか?」
「堅い事言わないの」
数分してジョーがやってきた。
「ジュン、もう遅いぜ。明日にしたらどうだ?」
「何言ってんのよ、鉄獣が攻めて来るかもしれないでしょ?”善は急げ”よ」
ジョーは甚平を見たが、彼はすっと足早に2階へと駆け上がってしまった。
(甚平の奴!元はといえばお前が・・)
「ジョー、早く入ってよ。上手く出来るまで帰さないからそのつもりでね」
「・・ちぇっ」

2階で昆虫図鑑を眺めていた甚平のブレスレットが鳴った。
「はい、こちらG4号」
『おいっ、甚平!」
「何だよ、ジョーの兄貴か」
『甚平、何とかしてくれ!』
「知らないよ。オイラ、関係ないもんねー」
『・・てめえっ』
「だいたいジョーの兄貴が悪いんだよ、突き離せばよかったのにさ」
『・・ふんっ』
「じゃあね、ジョー。頑張ってね」
甚平はジョーの悲痛な叫びを遮るようにスイッチを切った。
「ジョーの兄貴には悪いけど、静かになりたいんでね。・・ま、兄貴と違って、出来ないんだよね、ジョーの兄貴って」
そしてベッドにごろんとなった。
「お姉ちゃんに優しすぎるんだよね。だから、付け上がるんだ、お姉ちゃん」

ジョーは思った。
おだてて収めようとした作戦が、裏目に出てしまった、と。


「ジョーの兄貴、いつ帰れるのかな」



                 ー 完 ー


スポンサーサイト
別窓 | フィクション | コメント:0 | トラックバック:0 | ∧top | under∨
<<『神様なんていない』 | El Condor Pasa | 運動会>>
この記事のコメント
∧top | under∨
コメントの投稿

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック
∧top | under∨
| El Condor Pasa |